琳派のデザイン『金箔の謎』

 

 

● 奥行きをあえて表現しない平面性と単純化

 

琳派の作品の最大の特徴はモチーフの単純化と平面的な表現方法にあります。
琳派に限らず、狩野派や丸山派などの江戸時代の絵画や浮世絵は西洋絵画と比較すると同時代の西洋絵画が目指したリアリズムとは対極の平面的で装飾的な表現に明らかな違いがあります。

装飾的でありながら、それでいて自然が持つ美の本質を的確に捉えた浮世絵や琳派の自由な表現を初めて目にした19世紀のヨーロッパの画家達は驚愕したと言います。当時のヨーロッパ絵画は教会を中心にした宗教色の強いリアリティを追求したものばかりで、題材も人間を中心に描いていました。それに比べ琳派などの日本の絵画や工芸は、道端の草花や虫など、ヨーロッパでは絵の主題になり得なかったものが活き活きと描かれ、しかも観る者に感動さえ与えます。

さらに余白を活かしたアシンメトリーで動的なコンポジションは、シンメトリーと黄金比と写実の呪縛から逃れられずにいた当時のヨーロッパの画家達に大きなショックを与えました。
これが、後の印象派の画家達に影響を与え、そしてアールヌーボー運動へと繋がっていったのは、ご周知の通りです。
また、ヨーロッパ絵画は主に壁画や天井画などの様に固定された建築物の一部に描かれ、また額装された絵であったとしても、一定の壁面に固定されていました。
しかし琳派などの作品は主に掛け軸や屏風、襖等のそれ自体が動く調度品に描かれました。季節毎の茶事や慶事、催事など、様々な行事によってその都度飾られ、掛け替えられました。一見固定されている様に見える襖でさえも開け閉めの度に動きます。そのことにより何よりも他の花器や部屋や行事との調和を重んじられたことに余白を活かした平面性と単純化の意味があります。
結果として、『用の美』と言える琳派の作品には現代にも通じる良質なデザイン要素が凝縮されているのです。

 

ところで、金箔の上に描かれた屏風は主張し過ぎて、このような調和とはほど遠いのでは?と、思われる方がいらっしゃるのではないでしょうか。

 

では、「なぜ、金箔の上に描がかれたのか?」

かの谷崎潤一郎は、自身の著書『陰翳礼讃』でこの謎を以下のように解いています。


・・・「諸君はまたそう云う大きな建物の、奥の部屋へ行くと、もう全く外の光が届かなくなった暗がりの中にある金襖や金屏風が、幾間を隔てた遠い庭の明かりの穂先を捉えて、ぼっと夢のように照り返しているのを見たことはないか。」
「現代の人は明るい家に住んでいるので、こう云う黄金の美しさを知らない。が、暗い家に住んでいた昔の人は、その美しい色に魅せられたばかりでなく、かねて実用的価値をも知っていたのであろう。なぜなら光線の乏しい屋内では、あれがレフレクターの役目をしたに違いないから。」・・・本文より。

 

当時の金屏風が置かれた場所と光源と光量を考えれば、この『実用的価値』が見えてきますね。

 

 

伝統美研究家 成願 義夫