ミュージカル『エリザベート』

 

 

前回からは、僕も演じていた、ハンガリー革命家たちのお話です。

 

 


 

 

劇中での、ハンガリー革命家たちの最初の出番は、第一幕中盤。

オーストリア皇帝のフランツ・ヨーゼフ暗殺未遂の現場から、彼らの物語はスタートします。

 

そこで、革命家たちのリーダーは、この皇帝暗殺計画を、

 

「殺された父の報復だ」

 

と言います。

 

 

 

 

 

彼の名は、エルマー・バチャーニー

 

この役は、僕が出演していた2006年〜12年では、縄田晋さん中山昇さん岸祐二さんが演じられていました。

 

 

 

 

 

 

さて。

僕はいま、革命家のリーダーの名前を「エルマー・バチャーニー」とご紹介しました。

彼が、その登場場面の最後(第二幕後半、革命が失敗して囚われる場面)で、自分で名乗っていた名前です。

 

 

しかし、よく見てください。

前回記事で、彼の父親の名前を「バチャーニー・ラヨシュ」とご紹介しました。

実在の人物なのですが(劇中の革命家たちは皆、実在の人物から名前を取っています。特にエルマーの父・ラヨシュは、ハンガリーの初代首相で、実際に処刑されています)、息子エルマーとは「名前と苗字が逆」ですよね??

 

「バチャーニー」が苗字なのですが、このバチャーニー・ラヨシュさんを調べると、通常このような順番(苗字+名前)で表記されます。

日本人みたいですよね。

 

ハンガリーでは、日本と同じく「苗字が先」になるんです。

 

 

 

ところがエルマーは、逮捕された時、「名前+苗字」で答えています。

一つの可能性として、彼は「ハンガリーの名門・バチャーニー家の末裔である」ということを隠したかった、だから苗字を最後まで伏せておきたかった、という解釈はできます。

 

が、もう一つの見方として。

オーストリアの方式で自らの名前を語るということは、彼の「屈服」を意味しているのかもしれません。

 

 

 

 

 

今回、僕がこの「名前」に注目したのには、ある理由があります。

 

 

 

 

……ハンガリー革命家については、当時、なかなか役作りための研究が進みませんでした。

多少の事実関係はインターネットや図書館でも調査がついたものの、より具体的・人間的な姿まで、突き止めることが難しかった。

要するに、資料が少ないんです。

 

 

役作りに悩んだ結果。

僕が目をつけたのが、1930年代の「アイルランド独立」

ご存知の通り、イギリスから支配されていた国です。

 

彼らもまた、ハンガリー革命家のように、独立のための革命を起こそうとしました。(アイルランド独立戦争)

その結果、休戦協定によって「アイルランド自由国」が成立します。

 

ところがそれは、アイルランドを「イギリスの自治領にする」という条件付き。

事実上、彼らが手にしたものは、独立国家ではありませんでした。

 

 

 

……僕は、ハンガリーの二重帝国と、この自治領という決着のつけ方が、非常によく似ていると思ったのです。

そして、アイルランド独立戦争の資料ならば、ハンガリーの独立運動に比べ、手に入るものが圧倒的に多い。

例えばリーアム・ニーソン主演の「マイケル・コリンズ」(96)といった映画の題材にも取り上げられているので、映像資料としても、その様子や革命家たちの心を知るためのヒントを手に入れることができたんです。。

 

 

 

僕にとっては……おそらく、多くの日本人の方々が同じでしょうけれど。

 

他国に支配されることの痛み、そこから、一旦は独立を宣言されることへの喜び。

しかし、蓋を開けてみたらまんまと「騙されていた」と感じることへの落胆と、憎しみ。

 

友達たちは、騙されているにも関わらず、喜び勇んで皇帝たちを出迎える。

それを横目に、何もできないことへの苛立ち……

 

こんな状況と、そこに沸き起こる感情を手にするには、ただハンガリーの歴史を調べたってダメなんです。

 

 

 

 

 

この役作りの中で。

僕は、ある映画を思い出しました。

 

2006年のアイルランド・イギリス合作映画「麦の穂をゆらす風」

 

 

 

この映画の主人公は、ハンガリー革命家たちととてもよく似た状況を経験します。

 

 

 

映画の冒頭。

ただ、サッカーをするために集まっていたアイルランド人の若者たちが、イギリスの警察に逮捕されそうになります。

「違法な集会」を開いた、という罪。

(あまりにバカバカしいですが、これが「支配される」ということなのです。)

 

整列させられた若者たちは、警察に、名前を名乗るように言われます。

一人一人、名前を告げる若者たち。

しかし、彼らが警察に伝えるその名前は、生まれた時に授かった母国アイルランドの名前ではなく……英語の名前。

 

そんな中で、ある一人の若者が、アイルランド名を口にします。

そして彼は、納屋へと連行され、警察のリンチによって無残にも殺されてしまうのです。

しかも、家族の目の前で。

 

これが、若者たちの運命を、革命運動(アイルランド独立戦争)へと向かわせるのです……。

 

 

 

 

この冒頭の場面だけでも、命をかけて革命に身を投じていった若者たちの気持ちを推し量り、そこからハンガリー革命家の役作りのヒントにするには十分すぎるエピソードですが。

 

この映画の主人公はこの後、さらに、エルマーや、シュテファン、ジュラというハンガリー革命家達が辿った運命に非常によく似た状況を経験するのです……。

 

 

 

ご興味ありましたら、ぜひ、映画をご覧になってみてください。

名作です。

 

 

 

 

 

映画「麦の穂を揺らす風」。

主人公は、兄弟で革命に身を投じてゆくのですが。

二人が行き着く運命は、あまりに悲劇的なのです。

 

 

 

 

 

上述した通り。

映画の冒頭で語られるエピソードは「名前」

 

自分が生を受けた時に授かった名前を名乗るのか、それとも支配者が呼ぶ名前を言うのか。

それが物語の着火点になります。

 

 

 

 

ミュージカル『エリザベート』において。

エルマーが、その最後に「エルマー・バチャーニー」と名乗る心の痛みは、いかなるものだったのでしょう。

 

 

 

 

 

 

そして、僕のブログをしばらく読んでくださっている方は、もうお気づきかもしれませんね。

 

「本当の名前か、支配者が呼ぶ名前か」。

 

これは『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャンの葛藤と、ジャベールの支配。

「名前」というキーワードの中で、やはり同じようなドラマが繰り広げられているのです。

 

 

 

 

自らの名前を語れないということは、

鎖に繋がれているのも同じだ。

 

 

 

 

 

 

名前とは、私自身をあらわすもの。

 

僕は、自分の名前があまり好きではありませんでした。

 

でも、そこには、僕の誕生を心から喜び、祝福してくれた両親の思いが込められています。

そして、僕という人間が40年以上歩いてきた人生の軌跡が刻まれています。

 

ここまでの長い年月、たくさんの「谷口浩久」が、道を作ってきてくれました。

今更それを否定しろと言われたら、僕は何を思うでしょう。

 

あなたは、何を思うでしょう??

 

こんなことを考えていると、自分の名前が愛おしく感じてきますね。

 

 

 

 

 

 


 

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