ミュージカル『レ・ミゼラブル』のお話も、だいぶ内面的に深くなってきました。

ここで一旦、ちょっと浮上して、呼吸を整えましょう。

 

 

 

 

 

以前の記事で、ミュージカル作品では劇中で同じメロディーがアレンジを変えて使い回される「モチーフ」という表現技法について触れました。

 

 

 

 

例えば。

主人公のテーマ曲が、同じメロディーなのに途中で長調(メジャー)から短調(マイナー)のアレンジに変わってたりしたら「今、主人公は困難に突き当たって悩んでいるな」「暗い気持ちに打ちひしがれているな」といったことが伝わってくると思います。

 

ミュージカルでは、こうした方法でキャラクターの心情や場面の状況を表現することが多々あります。

この音楽的な仕掛けが「モチーフ」です。

 

 

 

 

『レ・ミゼラブル』でも、数え出せばきりがないくらい、この「モチーフ」が巧妙に張り巡らされています。

 

 

 

例えば。

みなさんご存知の「民衆の歌」

このメロディーは、ラストにもそのまま登場しますが。

途中、バリケードでの銃撃戦の場面に流れるBGMでも、同じメロディーがアレンジされて使われていますね。

 

 

あるいは、物語冒頭。

仮釈放になり、働き口や宿屋を探し歩くジャン・バルジャン

しかし、そんな彼を世間は冷たく突き放します。

ここで歌われる、短いけれどとても不安定さを感じさせるメロディーが、工場を追い出されたファンティーヌに対する冷ややかで残酷な市民たちの歌、さらには、転倒した馬車を自力で持ち上げるバルジャンに対し、疑惑の目を向けるジャベールの歌にも用いられています。

おしなべて、その場面の主になるキャラクターへの「周囲の人々の不信感」や「憎悪」といったネガティブな感情の伏線が表現されていますね。

 

 

 

 

このように、とてもわかりやすく同じ旋律が主張して使われている部分も多々ありますが、よりアレンジが加えられ、「似たようなメロディー」としてさりげなく、あるいはあまり気づかれないように使われていることもあります。

 

 

 

テナルディエの宿屋で働かされている、幼いコゼットの登場シーン。

彼女は、

「あの雲の上にお城があるのよ……」

と、その苦しい現実から逃れるように、切ない想像を巡らせています。

 

ここで歌われるメロディーを、より早回しで、話し言葉のようにしてみましょう。

 

すると、エポニーヌ「On My Own」という曲の冒頭、レスタティーヴォ(語りのような歌の部分)の部分。

歌詞で言えば、

「また あたしひとり 行くところもないわ……」

のメロディーと、とてもよく似た旋律になります。

 

同じ宿屋で育った二人が、暗い現実から逃れようとして、きらめく世界の想像を巡らせるという状況が伏線となっていて、それが、曲の上でも繋がり合っているのです。

 

 

 

 

 

「モチーフ」はやがて、さらに複雑な形を取っていきます。

 

先ほど例に挙げた「民衆の歌」

最初の一小節を聞いただけでも勝手に気分が高揚するくらい、わかりやすくて、有名で、キャッチーなメロディーですよね。

この「上から下がって、また上がる」という、最初の一小節のメロディーラインを、上下逆転してみましょう。

 

「下から上がって、また下がる」

 

すると、その後の場面(第一幕ラスト)で皆が歌う「ワン・デイ・モア」に登場するメロディーに変化します。

エポニーヌの「♫今日もひとりよ〜」というパートから始まり、アンジョルラスが銃を掲げて「♫嵐の日まで〜」と歌う部部分、さらには学生・市民たちの合唱にまで、そのメロディーは引き継がれていきます。

 

希望に満ち溢れた「民衆の歌」のメロディーが、これからやってくる嵐の時へとなだれ込む、その予感を感じさせる旋律に変化していますね。

 

(ちなみに、このメロディー。実は1小節だけでなく、アタマの2小節まるまるが逆転した形になっています。「民衆の歌」では「下がって、上がって…下がって、上がって、最後に一音だけ下がる」という形が、「ワン・デイ・モア」では「上がって、下がって…上がって、下がって、最後に一音だけ上がる」という形になっています。)

 

 

「ワン・デイ・モア」に関して言えば、この曲の中でテナルディエやジャベールが歌うメロディーもまた、彼らがすでに歌っているメロディーを繰り返していますね。

そもそも、この曲の序盤、マリウスとコゼットのデュエット部分は、ファンティーヌの「夢やぶれて」からの引用ですし、前述の「上がって、下がって…」という旋律も、同曲の中ですでに歌われています(「♫夢は悪夢に〜」部分)。

ファンティーヌが、幸福から不幸……嵐の時へと転落してゆく歌詞の部分に用いられていました。

 

 

 

 

 

このように、メロディーは、自在に形を変えながら縦横無尽に張り巡らされています。

時には非常にわかりやすく、時には一度や二度観劇しただけでは気づけないくらいにこっそりと使われているのです。

 

 

 

 

ベートーヴェンの「運命」。

あの有名なメロディーは、たった二つの音階(4つの音符)の組み合わせを繰り返し、ただ変化させるだけで、旋律を完成させています。

 

 

 

 

みなさんが慣れ親しんでいるミュージカル『レ・ミゼラブル』という作品は、元々、1980年に制作された同名ミュージカルを改定する形で、1985年にロンドンで初上演されました。

 

実は、その元になっている作品のテーマとも言えるメロディー部分が、現在の上演版にも「モチーフ」として引用されています。

 

 

劇中、何度も耳にする、短いですが印象的な「あの旋律」です。

 

 

例を挙げると、先ほども登場したエポニーヌが歌う「On My Own」。

冒頭のレスタティーヴォ(語り)の部分が終わり、いよいよ有名なメロディーの歌い出しの部分。

 

「♫ひとり……でも、ふたりだわ」

 

この「♫ひ〜とり〜」という音階。

この歌の中でも、その後に何度も登場しますね。

 

そして、この「♫チャ〜ララ〜」という旋律は、劇中に数え切れないほど引用されています。

 

 

1980年に作られたバージョンでは、登場人物たちが、事あるごとにこのメロディーを歌っていたのだとか。

この「♫チャ〜ララ〜」の部分に「♫れ〜みぜ〜る」のようにタイトル部分を重ね合わせて歌っていたそうですよ。

(フランス語は分からないので、詳しい発音や言葉は不明ですが、そんな感じだったそうです笑)

 

 

 

 

 

以前の記事で、ミュージカル『エリザベート』におけるメロディーの秘密をお話ししました。

この中でもお話ししている、バーンスタインの『ウエストサイド物語』もそうですが、作曲家はあの手この手でこうした音楽的な仕掛けを施しながら、素晴らしい芸術作品を生み出しているのですね。

 

 

 

 

 

 


 

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