いよいよ、ミュージカル『レ・ミゼラブル』の僕的・作品解説も、ジャベールの話に突入しています。
まずは前回記事で、彼が登場する場面をおさらいしました。
その出てくるタイミングや状況から、ジャベールはどうやら「救えなかった男・バルジャンが、誰かを救おうとすると現れる男」という、バルジャンにとってはえらく面倒くさいヤツだということが判明しましたね。
さて。
今回、確認しておきたいことは。
ジャベールという男が「どこから来て、どこへ行くのか」ということ。
物語の中での、彼の「始発」と「終点」を捉えれば、それがどんな旅路なのかがある程度限定されてくるでしょう。
まず、分かりやすいのは「終点」ですね。
彼が最期に堕ちてゆくのは、セーヌ川という「水の中」。
では。
「始発」は、どこだったでしょう??
実は、ここが旧演出から新演出になった時に大きく変わったポイントなのですが。
新演出版のオープニングは「海」。
囚人たちが、大きなオールで船を必死に漕ぐ場面から始まりますね。
水しぶきが上がる中、それを監視しているのが、ジャベールです。
つまり、彼はオープニングで「水の中」から登場します。
(映画版も同じく「海」の場面から始まります。ちなみに、原作と旧演出では「徒刑場」で掘削作業をしている場面から始まります。)
早速、繋がりましたね??
彼は「水」から生まれて「水」へと還っていく人生を辿ります。
ちなみに、バルジャンも同じ船の中=「水」から生まれますが、最後はろうそくの火に囲まれた「火」の中へと昇っていきます。
この、ジャベールの「水→水」と、バルジャンの「水→火」という、同じエレメントに戻るか、それとも違うエレメントに移行するかというのは、彼ら二人の人生をとても分かりやすく表しています。
さらに言えば、新演出版では「水」と「火」というエレメントが対比構造で多用されています。「青」と「赤」というトリコロールを象徴しているようで、いかにもレミゼらしい表現ですね。
旧演出では、ここが「水」と「火」ではなく「光」と「影」という対比で描かれていました。
この、対立するエレメントについても、また別の機会に詳しくお話しできたらと思います。
……話を、ジャベールさんに戻しましょう。
以前の記事でも書いた通り、新演出版の特徴は「伏線を多用した表現」です。
前半の場面と後半の場面の関連性で、人物を描写していく手法。
ジャベールの人生は「水から生まれて、水に死んでいく」。
同じところに「還っていく」という演出を施すことで、彼の人生をより分かりやすく物語っているのです。
一方で。
実際に彼がどこから生まれたのか、その具体的な場所が、劇中で彼の口から一瞬だけ語られます。
第一幕、中盤。
ファンティーヌの亡骸の横で繰り広げられる、バルジャンとの対決シーン。
バルジャンの歌が重なるので、非常に聞き取りづらいのですが、確かに彼は「俺は牢獄で生まれた」と言っています。
そのあと「だから俺はウジ虫だ」と言ってますね。
現代の考え方で言えば、彼の警部という役職は、ウジ虫として生まれた彼が、まるでイモ虫が美しい蝶に生まれ変わったかのごとくに「出世した」と感じるでしょう。
しかし、当時の警察は、生まれの良くない者が就く、ある意味で「卑しい」職業だったそうです。
彼は出世したのではなく、生まれた時と変わらない「ウジ虫」でいる(と思っている)のです。
フランス革命は、生まれながらにして切り分けられた階級社会という「旧体制」(アンシャン・レジーム)を覆したことに革命としての意味がありました。
卑しく生まれた者は、生涯卑しいままなのだという考え方を捨て、生まれながらにして自由で平等だという「基本的人権」を、人類が手に入れたのですね。
その考えに基づけば、どんな人間も、たとえ卑しく生まれても努力次第でそこから抜け出せる、ということになります。
しかしジャベールは「星よ」というソロ・ナンバーで、これを真っ向から否定します。
永遠に変わらない星に対して敬意を表し、人間は変わらない(べきだ)と宣言する。
もし変わろうとするのなら、俺が牢獄へぶち込んで、その自由を奪ってやる。
神の業火で焼かれるがいい、と。
彼の信念は「人は変わらない(べきだ)」ということにあるのです。
ジャベールはまさに、旧体制の申し子と言えます。
彼は、自分自身の人生をもその信念のもとに映し出し、変わることなくウジ虫の人生を送ることを星に誓います。
まさに、自分で自分を束縛していると言ってもいいでしょう。
「変わることを望まない男」=「変わりたくない男」、それがジャベールです。
一方、バルジャンという人物は、自分を変えようとします。
「変わりたい者と、変わりたくない者」。
この信念の対決が、バルジャンとジャベールの精神的な対決構造なのです。
以上、今回は。
・ジャベールが「水から水へと還っていく人生」であること。
・バルジャンとジャベールは「変わりたい者と、変わりたくない者」同士の対立構造にあるということ。
まだまだ続く、ジャベール徹底解析のために、今日はこの2点を押さえておいてくださいね。
……「牢獄で生まれた」のは、実はジャベールだけではありません。
「24653」という男もまた、牢獄で誕生しています。
その男はそれ以前、ジャン・バルジャンという素敵な名前を持っていました。
彼は牢獄でその名前を剥ぎ取られ、24653として生まれ変わることを強要されたのです。
「24653」とジャベールの、誕生した場所の一致。
これは果たして、偶然なのでしょうか…??
いよいよ、ジャベール徹底解析も、クライマックスです!!
(つづく)
◆日時:7/28(日)18時スタート
◆会場:SHINOBY'S BAR 銀座
(東京メトロ日比谷線銀座駅・東銀座駅より徒歩3分)
◆チケット:3,000円
◆定員:15名
◆詳細・ご予約はこちら
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◆日時:7月7日(日)13時〜15時
◆会場:カフェバー キツネシッポ
(地下鉄千日前線 今里駅から徒歩6分)
◆会費:1,500円
◆定員:15名様
◆ホスト:谷口浩久
ゲストプレゼンター:Ryu
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