天空へ続く道(再掲) | 太陽の船に乗る

太陽の船に乗る

ディオニュソスの白夜をゆく

 

天空への道は、前にも後ろにも

(再掲)

 

 音が向こうから降ってくる。

 風に乗って降ってくる。

 それは、彼女が吹く笛の音色ではない。

 彼女が奏でているものではない。

 向こうからやって来るものを、

 彼女はただ笛で受け止めて、風に乗せているのだ。



 ここから、突如旅が始まる、人生の旅が。

 道は、先が見えないまでに続くいっぽん道。

 どこにも曲がりもくねりも無い。

 ただただ、どこまでも続くと思えるいっぽん道だ。


 それはなぜか舗装されている。

 山道でも、砂漠でも、原野でもなく、

 なぜか両脇に高い木が続く並木道だ。



 一体、誰がこの道を舗装したのだろうか。

 一体、誰が道の両脇に木々を植えていったのだろうか。

 しかも、道はかなり広い。

 細い道、狭い道ではない、大道だ。



 彼女が通る前には、この道を通った多くの先人たちがいたのだ。

 いく世代にもいく世代にもわたって、

 この道は多くの先人たちによって踏み固められた。

 そして、いつか舗装もされてきた。

 道の両脇に続く並木の木々たちは、

 その先人たちの旅の記録でもあるのだろう。


 静かにそよぐ風の中を、彼女は軽やかな足取りで歩いていく。

 何の旅装もなく、いつも通りのセーターにスカート姿で、

 足にはスニーカーを履いて。

 道は暗くはなく、そうかといって特に明るくもなく。

 道が彼女を呼んでいるのだ。

 蜃気楼の向こうには、大きな白い雲が、

 行く手の地平線に待っている。

 わたしに見えるのは、軽やかな彼女の後ろ姿だけだ。