20数年振りとはいえ、4年間、共に戦ってきた同志である。

すぐに分かると思っていたのだが、当時の面影は全く無かった。面影が無いというよりは、全くの別人だと言った方が的を射ているだろう。それほど彼の姿は変わり果てていた。

 私は出来うる限りの笑顔で語りかけた。「○○大学の同級生だった・・・」と話そうとした刹那、私が誰なのかに気づいたのだろう。

「お前に先生の思想が分かるか!」と罵声が飛んできた。

 もう何日も剃っていないであろう無精ひげの効果で、もともと色黒であった太の表情は、病的なドス黒さに包まれ、真っ赤に充血した鋭い瞳だけが不気味に浮かび上がっていた。

 足元が崩れ落ちるような感覚に襲われた私は、ふらつく体を手すりで支えながら必死にこらえた。

 私の目からは、いつしか涙が溢れていた。旧友に会えた懐かしさでもなく、変わり果てた姿への憐れみでもなく、何とも言えない感情が、次から次へと込み上げ、涙となって流れていった。

20数年前に語れなかったこと。語るべきだったこと。それらをすべて語り尽くそうと焦れば焦るほど、嗚咽が止まらなくなり時間だけが過ぎ去っていった。

時間にして数秒の出来事であったと思うが、数十分にも数時間にも感じた。

 彼は、私の涙を見て、一瞬だけ人間の表情に戻ったように感じたが、すぐに扉は閉じられ、2度と開くことはなかった。