太とは、授業も一緒、放課後の学内活動も一緒ということで、特に何を話すというでもなく、同じ空気を吸って過ごしてきた。
 私たちの同級生でリーダー的存在だったのが、大学委員長になった高橋。
私は、「水の信心」を地で行くタイプで、大きな結果は出せないが、崩れることもない。そんなキャラクターが副大学委員長に適任だったのかも知れない。
太はと言うと、高橋のような人を引っ張る力は無いのだが、話の中心に自分がいなければ気がすまないタイプで、大言壮語を繰り返しては、「また始まった」と後輩たちに囁かれていた。
私は、そんな太が心配で、機会があれば話し合いたいと思っていた。
 突然、その機会は訪れた。
いつものように太が池田先生の思想を語っていた。後輩たちに向かって「お前、本当に学会員なのか?先生の思想も分からんで学生部員として恥ずかしくないのかよ」
しばらく我慢して聞き流していれば、太も満足して平穏無事に済むのだが、この時だけは勝手が違った。
 普段の鬱憤が溜まっていたのだろう。後輩の一人が反論した。
「太先輩は、先生の思想を語りますが、現実の行動が伴っていないじゃないですか!」
まさに正論であった。彼は遅刻の常習者で、私もしょっちゅう代返を頼まれた。試験前ともなれば、私のノートのコピーを取り、なんとかギリギリ進級していたという始末である。
また、相手を小馬鹿にした態度は目に余り、差別用語も頻繁に使っていた。
とてもじゃないが先生の思想を体現しているとは言えなかった。
 後輩の気持ちは良く分かると思った瞬間、太がその後輩を殴り倒した。
あまりに突然のことで誰も止めることができなかった。
後輩の頬は、みるみる腫れ上がり、殴られた衝撃でメガネは割れていた。
「忠言耳に逆う道理なるが故に流罪せられ命にも及びしなり」
修羅場であったにも関わらず、日蓮大聖人の御金言が頭をよぎった。