KENちゃんの引っ越しの日がやってきた。
相変わらず隣から夫婦喧嘩が聞こえてきた。
「え?これもらっていいんですか?」
しんちゃんがKENちゃんのコーヒーテーブルを指して言った。
「実家に家具はあるからしんちゃんにあげるよ。」
「KENちゃんありがとう。」
「俺、考えてみればKENちゃんの引っ越し昔も手伝っていますね。」
「うん。」
KENちゃんは目を細めて昔を思い出した。
真帆がアパレル会社の女子寮を出てKENちゃんと同棲するときに、引っ越しを手伝ったのはしんちゃん
だった。
真帆がTAKAの女だと思っていたしんちゃんが、交代劇にびっくりしてKENちゃんを見たのが、ついこの間
のような気がした。
しんちゃんのほうもふと昔を思い出した。
真帆とKENちゃんが同棲を解消した時、KENちゃんが出て行った後の真帆のアパートの引っ越しを手伝
ったのはしんちゃんだった。そのときすでに真帆は昔の男だったTAKAとよりを戻していて、TAKAも引っ
越しを手伝っていた。
今は34歳のKENちゃんの引っ越しを乱人君と中村さんも手伝っていた。
あんまりみんな昔と変わってないな・・としんちゃんは思った。
しんちゃんは中村さんはよく知らなかったが、乱人君とKENちゃんはB・Bのメンバーで、そのロー
ディをしていたのでよく知っていた。
酒臭いKENちゃんが「TAKAと真帆が住んでる豪邸とはエラい違いのアパートだな。」と悲しそうに言った。
「でも真帆さんが一番好きだったのはKENちゃんだって真帆さん言っていましたよ。最近業界の人から聞いたけど・・、TAKA・・沢田貴章の音信不通のお母さんが出てきてすごい金をせびってるそうですよ。あのお母さんだけで事務所が吹っ飛びそうだって・・。奥さんは浮気するわ、母親はバカだわで、そんなにTAKAも楽しくはないんじゃないかな?」
しんちゃんが言った。
「いや、俺はあいつになりたかった。」
ぼそっとKENちゃんが言った。
「ストレスあったってあいつのポジションのほうがいいだろ・・・。」
KENちゃんがうめくように続けた。
「ああいう妻・・ああいう家。車。子供。金。世間のリスペクト・・・少なくともあいつは誰かを幸せにしてるんだろう?俺は誰も幸せにしてないよ。昨日は電話でU子が死ぬって騒いだよ。」