KENちゃんは中村さんのアパートのドアを緊張しながら叩いた。
バンドを辞めるということが言いづらかった。
KENちゃんは中村さんのようには生きられなかった。
中村さんは音楽とともに同じアパートに20年近く生きていた。
鳥取の田舎から出てきて、音楽以外の価値を知らなかった。
中村さんととりとめない話しをした後、KENちゃんは勇気を出して中村さんに
「俺、バンド辞めたいんです。すみません。」と言ってみた。
中村さんは引きつっていた。
それから中村さんもこわばった顔で
「実は僕もバンドを解散させようと思って・・それを青木君に言おうと思っていた。」と言った。
2人は顔を見あわせた。
KENちゃんは何だかおかしかった。
これが潮時というものなのだ。
80年代にしたアメリカツアーの思い出などが頭に浮かんだ。
多分あれが最高でこのまま消えていく運命のバンドだったのだ。
最後のギグの場所のライブハウスは、不思議な事に最初にTAKAのバンドで歌った場所だった。
自分は振り出しに戻ったんだ。
いや後退したのか・・・・。
中村さんはこれから先のことは何も決めていないと言った。
KENちゃんは「カタギになる。」とぽつりと言った。