真帆が鍵を開けて玄関のドアを横に引いて開けた。
時代遅れのガラスと木目アルミの、横にスライドさせて開けるドアだった。
二人で中に入って見た。
「あ、ここ俺の部屋だった。」
TAKAが言った。
畳が茶色く日に焼けていた。何十年も畳替えもしなかったのではないかという老朽化だった。
「となりのオヤジがうるせえってよく壁蹴って来て、ストレスだった。」
「ここに共用の電話があったんだ。でもオヤジ連中との人間関係のもつれで・・取次ぎしてもらえないで、電話なし人生になった。」
真帆は8年前をぼんやりと思い出した。
そこにはダイヤル式のころんとした黒電話があった。
玄関は労働者のおじさん達と共用で、TAKAだけが若くて奇妙で浮いていた。
「女の子の声がうるさいからって聞いたんだけど。」
真帆が意地悪そうに言った。
「違うよ、ベースの練習の音だよ。」
TAKAの言い訳は8年前と同じで何となく真帆は笑ってしまった。
「電話使えないから、メジャーデビュー記念ギグの前に、ここに訪ねて来たんだよ。捨てられたと思ってね。」
「あ・・、浮気されたから真帆は捨てようと思ってた。」
「自分はどうだったのよ?」
「俺は浮気はしていなかったよ。あと金返すの面倒くさいから・・まあ、そのままむかついて逃げようかとは思った・・けど・・。」
「ひどい男。」
「人道的にどうかと思ったし、まあ一生のお願いとか頼まれていたので、メジャーデビュー記念ギグに招待したんだ。そういえば。」
「ここを不安になって訪ねたらね、おじさんが玄関に出てきてあの女ったらしなら引っ越したよって言ったんだよ。まだ子供だったから泣いたよ。金も愛も消えたと思って死にそうに悲しかったよ。」