「もてない男にはもてない男の人生があるんですよ。僕は小説に孤独を書けますよ。まりあ先生の少女漫画みたいにね、美男美女で愛し合うのだけが世界の創りじゃないんですよ。」
真帆がぼぉーっと宙を見た。
橘君は真帆が本当に嫌いになった。
「私があの漫画を最初に描いたのは高校生の時でね・・・。就職してから、封印してたのを応募したらデビューできたんだよ。こんなの売れると思わなかった。」
真帆がちょっと首をかしげてそれから寂しそうに続けた。
「あれは違うよ。あんなのリアルじゃないよ。あの漫画のモデルの私のあの人だって、なんか可愛そうな人だよ。だから貢いだんだよ。」
橘君が困った顔をした。
「あの人も私も孤独だからなんだかんだと一緒なんだよ・・。全てのアーティストが私小説を切り売りしてるわけじゃないんだよ。」
遠くから会話を聞いていた編集長が激怒して橘君をどやした。
「橘~!少女漫画が嫌いならいつ会社をやめてもいいんだぞ!辞めて売れない童貞小説を孤独まみれで書けー!」
橘君が引きつった。
「早坂まりあ先生のおかげで社員全員が高額のボーナスにあやかる事が出来るんだぞ!誰のおかげで食えてると思ってるんだ、テメー。先生に意見するなんて百年早いんだよっ!」
橘君が「すみません。すみません。」と編集長に平謝りした。
「誰に謝ってるんだテメー。先生に土下座して謝れ!馬鹿口叩く前に3回考えろっ!」
「私は怒ってないですよ。」
真帆が静かな口調で言った。
「申し訳ございません。ナマイキすぎました。」
橘君が真帆に謝った。
「ナマイキ過ぎだよ。たかだか底辺のおつかい編集者のくせに、一番の稼ぎ頭の先生に何偉そうに話してるんだよ。誰のおかげで食えてると思ってるんだ。」
編集長が橘君をどやし続けた。
「私は橘君みたいに理屈っぽくないし・・。基本が絵描きだから・・・、気にしてません。」
真帆が淡々と言った。
編集長が「臨時の担当を替えます。」と真帆に謝った。
「橘君のままでいいですよ。むしろそんな騒ぎになるほうがストレスです。」
真帆が面倒くさそうに言った。
橘君が涙目になった。
「帰りのタクシー代をお払いいたします。橘の車では不愉快でしょうから。」
編集長が財布からタクシー券を出そうとした。
「橘君の車で充分ですよ。そんなに怒らないであげてください。」
真帆がびっくりした事には橘君は泣いていた。
もうすぐ23歳になるというのに橘君は泣いていた。