連載:自主マス出身者が語る仕事の魅力[1] 聞き手:稲増龍夫(代表顧問)
自主マスコミ講座が1988年秋に開講されて、まもなく35年を迎えます。ここから巣立った卒業生は5000人を超えます。私は法政大学を定年退職となりましたが、時間ができたので、さまざまな分野で活躍しているOBOGたちを巡って、話を伺ってみたいと思い、今回から、月1ペースで報告していきたいと思っています。
初回は、現在、放送中のドラマ「罠の戦争」(フジテレビ系列)のプロデューサーである関西テレビ河西秀幸くんをゲストに迎えました。彼は都立国立高校出身、2002年3月社会学部卒。現在は、関テレのドラマのエースとして活躍中です。4月から始まる火曜23時ドラマ「ホスト相続しちゃいました」のチーフプロデューサーも担当しています。
なお、この連載、当初は、情報を得やすい関係で稲増ゼミ出身者が多くなりますが、現在進行形で、放送中、連載中、イベント開催中などの、旬な告知ネタのあるOBOGは積極的に連絡ください。気軽に取材に伺います。
稲増:絶賛放送中の月10ドラマ「罠の戦争」が好評だけど、最終回に向けて忙しいところ時間をとってくれてありがとう。まず、学生時代の就活の足跡を教えてください。
河西:大学に入る前からテレビの世界に漠然とした憧れがあり、稲増ゼミをきっかけにテレビ番組制作への道を目指しました。当時のテレビ局入社はとても競争が激しく、とにかくテレビ局ならアナウンサーでも総合職でもという思いで、アナウンサーコースを選びました。就職試験ではアナウンサー試験も色々と受けましたが、やはり番組制作の仕事に惹かれ、カンテレを選びました。その頃は情報番組やバラエティ番組志望だったので、まさかこんなにドラマの仕事をしているとは思わなかったです。アナコースで「言葉を伝える」大切さを学び、実は今でもその頃のスキルが仕事に役立っていると思います。
稲増:あなたは北海道放送のアナにも内定したのに、結局、制作にこだわったんだよね。
河西:そうでしたね(苦笑)で、2002年に関西テレビ入社、入社後21年間、ずっと制作部です。本社にてAD体験を経て、2007年東京制作部に異動。「SMAP×SMAP」のAPになりました。
稲増:超人気番組だったから、すごい栄転なんだけど、ただ、最初はディレクター(演出)志望だったのに、そこでプロデューサーに転向したわけだね。理由は?
河西:先輩に「プロデューサーの方が向いている」という半ばダマし文句のような言葉に動かされ、プロデューサーを目指すことにしました。AP(アソシエイトプロデューサー)を経て、2016年の番組終了まで10年間、「スマスマ」制作に携わりました。2010年の「逃亡弁護士」で連続ドラマのプロデューサーに。ドラマのAPや助監督の経験はなく、バラエティのAD、AP、Pの経験だけで連ドラPに抜擢してくれた先輩には感謝しています。以降、連ドラ16本のプロデューサーを経験しました。
稲増:「スマスマ」では、SMAP解散劇の渦中にいたわけだけど、こればかりは、墓場まで持っていくレベルの話だろうから、聞きません。現役の講座生の中には、プロデューサーの仕事のイメージが湧きにくいかもしれないので、簡単に説明してくれる。
河西:ゼロから1を作る作業はとてつもなくエネルギーが必要ですが、一番やりがいを感じます。何もなかった畑に種を植えて、どんどん育っていくのを目の当たりにしている感じでしょうか。個人的には、脚本家と作り上げた本を超えた凄い芝居を役者がした時、感動します。今回の 「罠の戦争」でも役者の芝居を見て、何度も現場で私は涙しました。
稲増:畑に何を植えて、どう育てるかは、まさにプロデューサーの醍醐味だからね。
河西:あと、下世話だけど、電車で通勤中の方がスマホで自分のドラマを視聴しているのを目撃した時、とてつもなく嬉しいです。「それ、僕作ってます」と言いたいのを抑えます。それと、プロデューサーなので視聴率が良い時はやはり嬉しいです。現場の空気が物凄く良くなり、結束力が強くなります。結果が良いと偉い方から高級お弁当が差し入れされ、現場スタッフも喜びます。それと、クランクアップの時に主演やキャストと皆で喜びを分かち合える時、この仕事やってて良かったなとつくづく思います。
稲増:現在放送中の 「罠の戦争」について教えてください。
河西:2015年「銭の戦争」、2017年「嘘の戦争」と、戦争シリーズ3部作として、「嘘の戦争」放送後、早々に「罠の戦争」の企画書を脚本の後藤さんと作っていました。でも色々な事情でなかなか思いが叶わず、放送まで6年かかってしまいました。
今回の主人公は実はこのシリーズで一番、一般の人なんです。普通の議員秘書という弱い立場の主人公に設定して、視聴者に共感してもらえるような企画を目指しました。いわば、「弱者が強き権力者に立ち向かう復讐エンターテインメント」であり、これまでのシリーズと違うのは、最終回に向かって、主人公のキャラが闇落ちし、そして復讐されるという、とてもチャレンジングなストーリー展開です。Netflixでは1話から見られるので、3/27の最終話に間に合います!
稲増:じゃあ、最後に、テレビ局を目指す自主マス生にエールをお願いできますか。
河西:はい。地上波を観ない人が増えている、配信プラットフォームが活況だ、などメディアを取り巻く環境はダイナミックに変化しているけれども、一方、現場でものづくりをしているクリエーター達は、そんなに変わっていません。ドラマでいえば、企画をたてて、キャスティングして、現場で毎日撮影してと、結局のところ「どんな企画を立てて、どんなメッセージを視聴者に伝えるか?」というクリエーターの思いで成り立っているのです。クリエイティブな仕事に飛び込みたい方は、「自分が作って伝えたい事は何なのか」という気持ちの部分を熱くもってほしいと思います。そんな気持ちを持って、皆で何かを一緒に作りたい、と思う方にとっては、テレビはまだまだやりがいと夢がいっぱいの世界だと思います。
河西くんは、今でもテレビドラマの最前線で奮闘しているけど、本当に楽しそうで、まさに絵に描いた「リア充」です。好きなドラマの世界で、ワクワクしながら仕事ができるって、本当に幸せなことだと思います。