日銀の景況感上方修正や米国大手金融機関の利益増、
民主党による景気刺激策。
さまざまな「上昇の兆し」が報道されますが、世の中の
大半を占める中小企業の景況感は二番底を思わせる
悪化がひしめいています。
その中で、生き残り策として「切り札」のように使われる
雇用調整(リストラ)。
雇用調整は、される人にもする人にも大きな傷と呪縛を
残します。
される人はまさに「解雇」という言葉による衝撃と、今日迄
すごしてきた社会人としての足跡を踏み消されるような
絶望感、そして怒りや悲しみ。家族への思い。
する人も地獄です。
ここでいう「する人」というのは、実務として社員面談をし、
個々に条件や日程の説明をし、本人に合意させる人です。
会社にもよりますが、経営幹部がこの「実務」をすることは
あまりないでしょう。
人事部長や次長レベルでしょうか。
以前、リクルートの人事部長をされていた方が経営危機
に際して、リストラを断行する前線に立たれていた当時の
話を聞いたことがあります。
当時はリクルートも「中小企業」の部類でした。
この元部長は、通勤途上で対象社員に突き飛ばされたり、
自宅に脅迫電話を受けたり、日常を含め心身ともに大きな
ストレスの中、リストラをする実務をこなされたようです。
ここで大事なのは、このような「リストラ実行部隊」にも
大きな人間関係の障害が生まれる、ということです。
担当部門の全員が莫大なストレスの中、仕事として目標を
達成しなくてはいけません。
その中でのわだかまりは、日に日に蓄積されます。
誰だって、昨日まで一緒に仕事をしていた人を解雇する
のは嫌なものです。
しかも、その解雇を直接本人に自分の口から言い渡し、
条件面などに合意させる。これは地獄でしょう。
そんなストレスは、得てして「なんで自分がこんな仕事を」
という感情を生み、リストラ実務に対し投げやりになります。
実務の責任者はこのような障壁も日々解決しなくてはいけ
ないのです。
実務部隊がなげやりになると、「される人」は更なる怒りと
悲しみを覚えます。
人事のプロとは、決して組織の後方支援や日陰の仕事を
する人ではなく、日々変化、動き、感情をもった組織という
ものを”活かす”人です。
私は「究極の営業」とも思っています。
長年働き、家族を支え、自分自身も成長し「大きくなった」と
思っている方々にとって、リストラというのはまさに地獄に
突き落とされるもので、家庭を持っている人であれば尚更
自分ひとりでこの「現実」を背負ってしまいがちです。
こういう方々には最大限の配慮と、これまでの感謝の気持
をもって対応しなくてはいけません。
仕事としては「作業」という分類かもしれませんが、実務の
場面では全身全霊を注ぐ大仕事です。
再就職先の支援や、ご家族への配慮、人事が考えるべき事
は山のようにあるはずです。
理想を言ってしまえば、辞めていただくことがGOALではなく、
将来的に対象の方が同業や異業種で活躍されるようになり
自社の「お客様」になっていただけるかもしれない、という事
も考えるべきです。
感情論でいえば「クビにした会社なんかと取引は有り得ん」
ということでしょうが、長い人生、どこでどうなるか判りません。
まあ、余裕がない中でそこまで求めるのは酷かもしれない
ですが、「リストラ対象者」の今後を愛をもって対応する、
そういう人事が本物の「人事マン」ではないでしょうか。