今月の24日、とうとう政府と東京電力によってとんでもないことが実施されてしまった。
言うまでもなく、福島第一原発の「処理水」を海に流し始めてしまったことである。
すべて流しきるには約30年かかるという。
この「処理水」というのは、溶け落ちた核燃料(デブリ)への注水や建屋に流れ込む地下水・雨水によって大量に発生した汚染水を、多核種除去設備、通称ALPSで浄化処理したものなのだが、実はこのALPS処理をもってしても、トリチウムという放射性物質は除去できないのだ。
したがって、この「処理水」は、所詮は汚染水に変わりはないのである。
政府は、この「処理水」と称する放射能汚染水(以下、核汚染水)の海洋放出を、「海水で希釈した上でのことなので害は無い」というようなことを言っているが、いくら希釈したところで、最終的にタンク内の有害物質が除去され切っていない「処理水」を約30年後、全部放出してしまえば、結局は同じことではないのか。
そういうわけだから、福島県漁業協同組合連合会など地元の漁業関係者は、この海洋放出に大反対していた。
いや、今も反対しているし、納得していない。
忘れてならないのは、政府は2015年に、福島県の漁業関係者の皆さんに、
「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」
と文書で約束していたことだ。その約束が破られたのである。
【TUFchannel】
「現場の声をもう少し聞いて」処理水問題大詰めで漁業者訴え【処理水 福島の葛藤】
(公開日:2023年8月21日、再生時間:1分50秒)
【TUFchannel】
「納得していないのにおかしい」処理水24日放出開始へ 漁業者は憤りあらわ 福島
(公開日:2023年8月22日、再生時間:0分46秒)
メディアの報道では、あたかも中国だけが海洋放出に反対しているかのような印象を受けるが、実際は他にもかなり多くの国々が反対している。
例えば――。
韓国、北朝鮮、中国、ロシア、ドイツ、太平洋諸国フォーラム(以下、PIF)。
PIFには、オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィジーなど、16か国・2地域が加盟していて、今年の6月30日に正式に海洋放出反対の声明を出している。
だから、中国や韓国、それに日本の漁業関係者だけが反対しているかのような報道は、虚偽である。
まだ核汚染水の放出が始まる前の8月7日に発売された「紙の爆弾」9月号で、ジャーナリストの浅野健一さんが驚くべきことを伝えている。
漁業関係者からの海洋放出への同意が得られない中、岸田文雄は何と、反対する韓国政府を懐柔し、さらには国際原子力機関(以下、IAEA)の事務局長のラファエル・グロッシなる人物を、代弁人・工作員に仕立て上げ、「海洋放出に科学的根拠を得た」と宣伝し始めた。
【ラファエル・グロッシの肖像写真】
(2020年9月10日撮影、フリー画像:IAEAイメージバンク, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons)
このラファエル・グロッシという人物を信用してはならない。要注意人物である。
浅野健一さんによれば、この男は7月4日に来日した際、首相官邸で「海洋放出は国際基準に合致」との IAEAの包括報告書を岸田文雄に手渡し、「放射線が人や環境に与える影響は無視できるほどごくわずか」などと語った。
このグロッシ氏の発言を聞いて「海洋放出は安全だとお墨付きを得られた」などと安心するのはまだ早い。日本政府は IAEAにかねてより巨額の分担金や拠出金を支出しているという事実がある。
IAEAからの「お墨付き」を、中立的な立場から出たものと受け止めていいのだろうか?
(以下、浅野健一さんの記事から引用)
通常の原発運転で出る汚染水と、未曽有の事故で溶け落ちたデブリの冷却作業で発生する核汚染水とはまったく違う。2011年の東京電力福島第一原発事故後に出た原子力緊急事態宣言は現在も継続中で約100年間解除できず、デブリ除去は手つかずの状態だ。
(引用、終わり)
日本政府は、原発から出た水を海に放出することは他の国々でもやっているなどと言っているようだが、このたびの東電が放出している水は、それとは別物だと理解しなければいけない。
IAEAこそは、まさに「原子力マフィアの総元締め」だと喝破しているのは、元京都大学原子炉実験所助教の小出裕章さんだ。
浅野健一さんも同意見らしく、IAEAがこれまで行ってきた、チェルノブイリ原発事故の影響調査や、ウクライナ戦争での原発をめぐる攻防に関する姿勢を見てきた限りでは、IAEAは科学的・中立的な国際機関などではなく、原発産業を推進する、ただの胡散臭い組織だとしか思えないらしい。
【プーチンと会談するラファエル・グロッシ】
(2022年10月11日撮影、フリー画像:Kremlin.ru, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons)
小出裕章さんによれば、何も核汚染水を海に流さなくても、他に実行可能な方策は山ほどあるという。
政府と東電がそれらの方策を採用しないのは、青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場を稼働させたいためなのだそうだ。
再処理とは、使用済み燃料を高温の濃硝酸に溶かして、プルトニウムを分離する作業をいう。
その過程でトリチウムは全量が水に移り、環境に放出される。
福島の「処理水」が実際は海に流してはいけない核汚染水だと認めてしまうと、再処理工場を稼働させることはできなくなってしまう。原発再稼働を目指す岸田文雄にとってそれは困るのだ。
だから、何が何でも核汚染水の海洋放出を強行したのだ。漁業関係者との約束を破って‥‥!
次回のブログ更新では、海洋放出以外の実行可能な核汚染水の処理の方策をいくつか紹介したい。
(続きます。)