前編『夢で逢った人々』が2月13日、後編『夢見る力』が2月20日の放送だった。
言うまでもなく、『ウルトラセブン』とは、1967年(昭和42年)に円谷プロダクションとTBSが制作したテレビ映画であり、TBSが同年の10月1日から放送を開始、翌年の9月8日まで放送され、大人気を博していた。
つまりは、民間のテレビ番組制作会社が作った作品にまつわる話をNHKがドラマ化したのだから、おそらく誰もが驚いたはずである。
しかし実際に観てみたら、これはNHKでなければ作れない、しっかりと地に足のついたドラマだと思った。
昨年末に、ようやくこのドラマのDVDを購入できたので(長く絶版になっていたのが再発売されたのだ)、この正月休みに久しぶりに観てみた。
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作・脚本:市川森一
制作:菅野高至、浅野加寿子
演出:佐藤幹夫
音楽:宮川彬良
昭和42年、夏、円谷英二(鈴木清順)率いる円谷プロダクションは、新作テレビ映画『ウルトラセブン』の撮影を開始していたが、あるとんでもないトラブルに見舞われ、撮影は一時中断した。
この作品のヒロイン“アンヌ隊員”役の女優の運転する車が、助手席に男性脚本家を乗せたまま衝突事故を起こし、脚本家は死亡、女優も重傷を負って入院してしまったのだ。
『ウルトラセブン』はよく知られた作品だから、おそらく多くの人が理解していることと思うが、念のために述べておくと、この女優と、死亡した脚本家は架空の人物で、同作品の撮影時にこのような事故があった事実はない。
すなわち、この部分は完全なフィクションなのだが、実のところこのドラマは、全編を通してフィクションが大部分を占めている。
だからこのドラマは、実話を完全ドラマ化したのではなく、有名テレビ映画『ウルトラセブン』を題材にした、完全フィクション作品だと割り切って鑑賞した方がいい。
さて、入院した女優の代役を大至急探していた円谷プロ専属の監督・満田(塩見三省)は、たまたま劇中に登場する宇宙人のスーツアクターのアルバイト要員だった大学生のゆり子(田村英里子。本作の主人公である)を見かけて、一目で気に入り、独断でアンヌ隊員役に抜擢した。
死亡した脚本家が途中まで執筆していた脚本『他人の星』は、テレビ局のプロデューサー・三国(財津一郎)の推薦を受けた新人脚本家・石川新一(香川照之)が、後を引き継いで書くことになった。
一方、円谷プロ専属の脚本家・上原正三(仲村トオル)は、『300年間の復讐』という脚本を執筆していたが、この脚本に上原は、ある思い入れがあった。
上原は、同じ沖縄出身で、やはり円谷プロ専属の先輩脚本家・金城哲夫(佐野史郎)に“あること”を訴えたくて、この脚本を書いたのだった。
撮影が一時中断したために、主役のダン(松村雄基)は撮影所に待機せざるを得なくなり、恋人のシャンソン歌手・冬木直子(日向薫)との婚姻届を出せなくなった。
劇中に登場するウルトラ警備隊の車「ポインター」を拝借して撮影所を抜け出し、直子と待ち合わせの市役所へ急ぎ向かったものの、途中で白バイにつかまり、直子との約束は果たせなかった。
だがこれでダンは、『ウルトラセブン』に全力投球する決心が固まった。
このドラマではダンは仙台の出身となっているが、実際にダンを演じた森次晃嗣さんは北海道の出身で、『ウルトラセブン』出演当時に結婚の約束をした恋人がいたかどうかは定かではない。
ただ、Wikipediaによれば、“1966年、シャンソン歌手の金子江見と結婚し、三女がある。”となっており、それが事実なら、『セブン』出演時には既に既婚だったことになるが、はたして真相は?
しかしながら、奥さんがシャンソン歌手の金子江見さんだというのは、紛れもない事実のようである。
いずれにせよ、このドラマで松村雄基さんが演じているダンは架空の人物で、森次晃嗣さんとは同一人物とは見なさない方がいい。
思いがけず『ウルトラセブン』のヒロイン“アンヌ隊員”役に抜擢されたゆり子は、以後、関係者から公然とアンヌと呼ばれるようになった。
実際にアンヌ隊員を演じていた菱見百合子(現・ひし美ゆり子)さんは、もともと東宝専属のれっきとした女優だったが、本作のゆり子は体育教師志望の体育大学生となっている。
本作は、あえてヒロインを演技未経験の素人に設定することで、『ウルトラセブン』の制作に携わった当時の関係者たちの熱い思いを、よりくっきりと浮かび上がらせている。
“夢”をかたちにするために熱い思いをぶつけ合って働く人々――。アンヌにとって夢のような日々が始まった。
アンヌのその想いは、そのまま実際に『ウルトラセブン』の制作に参加していた市川森一さんの想いでもあるのだろう。
その市川森一さんは、本作には香川照之さんが演じる「石川新一」として登場している。
(後編『夢見る力』に続きます。)