今回は、アニメーション映画の小説版「言の葉の庭」を読ませて頂きました。
美しい作画が印象的な映画を作成される、新海誠さんの作品です。
雨の日の、切なくも美しい情景を、文章で見事に表現されています。
あの綺麗な絵を小説にすると、このような仕上がりになるんだなぁと、若干の感動も。
高校生の秋月孝雄と、それよりも10歳以上年上の雪野。
物語は、このふたりを中心に回っていきます。
章によって語り手が変わってくるので、ふたりの物語でありながら、さまざまな登場人物の背景や心理をくみ取ることができます。
ある人の気持ちが、誰かの人生を変えていたり、
ある人の言葉が、誰かの救いになっていたり、
与える側と受ける側の両方の視点を知ることができるから、どうしたって哀しくならずにはいられません。
物語全体がひとつのパズルになっているのなら、そのピースを読者だけがすべて知っているような感じ。
いつかは届くかもしれないけれど、今は分からない「その人」の想いが、痛いほどに伝わってきます。
切ないほどの美しい映像を、あるときはコーヒーの湯気に例えてみたり、あるときは心理描写で表してみたり、あるときは雨の降っている公園で表現してみたり……。
ひとつひとつを丁寧に描いているからこそ、胸の奥をそっとなでられているような、そんな小説になるんですね。
映画を観て美しいと感じた人には、ぜひとも読んでみてほしい一冊です。