コーチング事例109 リーダーって何
コーチング事例109 リーダーって何
出世したいわけじゃないのに・・・
商社に勤務する彼は、入社8年目にして係長に昇進しないかという人事からの呼びかけに、大変悩んでいます。
自分は、いったいこの会社で何をしたいのか?
コーチは、迷路に入り込んだ彼とゆっくり話をする時間を持ちました。
「わたしは、自分が先頭に立ってぐいぐい引っ張るタイプじゃないんです。尊敬するリーダーがいて、それを支えている自分の仕事が誇らしいんです。だから、今回の人事の申し出は断ろうと思っているんです」
「かなり、意思が明確なのに、コーチングのセッションを希望したのには、何か理由があるように思うんですが、それについて伺ってもいいですか?」
「はい・・実は、近々結婚する予定なんですが、彼女のお父上が今回の話を聞きつけて、ぜひ、受けてみたら・・とおっしゃるんです」
「お父上はどうしてその情報を入手したの?」
「あ、僕ら、会社が同じで、同期入社なんです。彼女の父上は、会社の役員で・・・」
「なるほど、同期入社なんですね」
「はい、30歳で係長への昇級は、会社の中でのスピードは速いほうですか?」
「いえ、決してそうではありません。ただ・・やっぱり他の同期や先輩の目も気になることも事実です」
「正直ですね」
「はぁ・・・でも、わたしが一番気になることは、自分にリーダーとしての資質があるかどうか、自信がないことです」
「大学や高校時代、クラブ活動はしていらっしゃったのかしら?」
「はい、アメリカンフットボールを・・」
「体育会系の典型のようなクラブですね」
「はい、生きがいでした。大学に通うのは、アメフトのためって感じですかね」
「そうですか。誇りだったんでしょうねえ」
「ええ、とても楽しく充実していました」
「そのクラブ活動の中では、どんな役割を?」
「はい、やはりリーダーを支える立場で、副キャプテンでした」
「なるほど、具体的には?」
「戦略を監督やコーチと考えるのはキャプテンが。わたしは、チームメイトをまとめる役」
「両輪だとは思いませんか?」
「え?」
「戦い方を考える人と、チームをまとめる人。どちらかがかけても、勝てそうにないと思います」
「そうかもしれませんが、やっぱり自分は・・・補佐役ですよ。彼には勝てない」
「それは、思い込んでいるだけでしょうか?それとも、キャプテンに対するコンプレックス?それとも、理想の自分と現実のギャップに気持ちが引けているだけ?」
「うん・・どれもみんなあっているようであってないかも」
「それを整理しない限り、あなたは、今の社会でもすっきり気持ちが晴れることはないかもしれませんね」
「手厳しいけど、そうかもしれないですね」
「リーダーって、ぐいぐい引っ張るだけのカリスマ的存在の人を言うとは思いません。たとえば、吉本の芸人さんたちのように、テレビ番組をリードしている司会者は、それは立派なリーダーですよね?
彼らは、ぐいぐい引っ張るよりも、むしろ、『引き』のリーダーシップのような気がするんです」
「引きのリーダーシップ?」
「そう、相手を尊重してゲストの思わぬ意見を引き出したり、感情を引き出したりしているでしょう?」
「ああ、そういうことですね。確かに・・・そうですね」
「そういうリーダーシップもいいんじゃないかしら?」
「そうかもしれないけれど・・」
「どんな不都合があると思いますか?」
「ん・・・でも、部下の指導だってあると思います。そういう時は、率先して仕事をこなすとか、いろいろあると思いますが」
「そうですね。でも、あなたは仕事をする能力が劣る人だとは思いませんが。それを裏付けるのが、今度の人事からの申し入れでしょう?」
「あ、そうですね。確かに」
「係長は、課長の補佐。そう考えれば、一人で頑張るのではなくて、課長と一緒にチームをまとめる。そういう係長になりたいと、宣言したらいいんじゃないですか?」
「それには、まず、昇級試験を受けなくちゃ・・・」
「そうですね。まずは、試験を受けますという宣言をしてみたらどうでしょうか?」
「うん、まだ、そこまでは勇気がでませんが、考えてもいいかな?やってみようと思います、くらいなら言えます」
「では、それをしますの宣言にするためには、どんな条件が必要ですか?」
「課長と相談してみます。わたしでよいかどうか、客観的にみてどうか、一緒に考えてもらいます」
「なるほど、いいですね。やってみましょう」
自分の生き方がわからない。自分の活かし方がわからない。そんな時、人の気持ちは、とても不安定になります。自分の強みと弱みをしっかり心得ること。まずは、そこからスタートです。