あさイチ㉓ | GIN@V6〜since20xx〜

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You've got the best choice!!

 

体育祭はいよいよ明日

 

そのせいだろうか。学校全体が気忙しくも活気に満ちている

 

 

教育実習も大詰め

 

体育祭と最終日が重なっていて、俺自身バタバタしてて、ここんとこ校内で健ちゃんと出くわす頻度がグッと少なくなってる

 

たまに見かけても、ゆっくり話もできやしない

 

 

 

けど

 

なんだろな

 

 

へへ…

 

満たされてんだよなぁ

 

 

 

朝イチに顔合わせて、ほんのちょっとの時間だけどあの笑顔を独り占めするだけで

 

エネルギーが、こう…体の中に満ち満ちてくるっつーか、溢れてるっつーか、漲ってるっつーか

 

 

 

うん

 

コレがリア充

 

これぞリア充

 

ビバ、リア充

 

 

 

 

 

 

「井ノ原先生、今日、時間大丈夫?」

 

放課後の職員室

体育科の先生が俺の肩を叩いた

 

「あ、ハイ。大丈夫っす。これ終わったら行きます!」

 

 

体育祭の最後に、バレーの優勝チームと若手教職員チームが対決する、言わばエキシビジョンマッチみたいなもんがあるらしい

 

 

「無理しない・怪我しない」

 

これがチームのスローガンとは言え、全校生徒の前での対戦

 

歳だって生徒とそんなには変わらない若い先生達(つっても、MAX10歳以上離れてるけど)
 

やる気スイッチは既にON

 

 

俺は教職員チーム期待の超新星って事で、放課後の練習に誘われていた

 

 

 

着替えを済ませて体育館へ向かう

 

 

バレーなんて久々だな

さてと、張り切って楽しみますか

 

ん?

あれは…

 

 

体育館に続く通路の途中

 

何気無く目を向けたグランドに、剛くんを見つけた

 

 

ハハ、相変わらずカッケーな

剛くんて、デカい声出したり派手な事してる訳じゃないのに、なーんか目ぇ引くんだよな

 

あ!

って事は……ハイ来た!

 

 

 

剛くんを追っかけるようにして、健ちゃんが走って来た

 

 

練習、頑張ったんだろうな

ボール追う姿がだいぶサマになってる

 

それなのに、自分とこにボールが来るとやっぱり慌てちゃう所が可愛い

 

ハハ、健ちゃんらしいや

 

 

ゴールを決めた剛くんの周りに皆が集まって

肩叩いたり、ハイタッチしたり、抱きつい…てんのは健ちゃんか

 

 

ま、今の俺は余裕で見てられますけどね

 

なんつったって、リア充

余裕のよっちゃんとは、正に俺の事よ

 

このぐらいのハグなんか、ぜーんぜん…

 

 

…えっと

 

健ちゃん?

 

そろそろ良くね?

皆、もう走ってっちゃったぞ

 

ほら、剛くんも手ぇ払ってるし

 

なにも、わざわざ肩組み直さなくても

 

 

 

 

えーい!

 

「剛くん、ナイッシュー!」

 

手をメガホンにして、グランドに向かってデカい声で叫んだ

 

 

俺に気付いた剛くんが、照れたニワトリみたいに首を軽くクイッと出して会釈して

 

健ちゃんは、パッて花が咲いたみたいな顔して俺に向かって駆けて来た

 

 

ハハ!

健ちゃんの事は呼んでないんですけどー

んも~、わざわざ走って来ちゃったの?

 

 

「お疲れ!井ノ原くん、どこ行くの?」

 

「ん?今からバレーの練習」

 

 

うわ

やたら眩しいんですけどー

 

キラキラしてんのは汗のせいか?

逆光のせい?

 

あ、笑顔のせいか

健ちゃん、俺の目潰す気?

 

 

「健ちゃん、練習相当頑張ったろ。だいぶサッカーっぽくなってきたじゃん」

 

「あ、バカにしてるー!」

 

「してない、してない。上手くなったって褒めてんだよ?」

 

「ホントかなぁ?ホントにそう思ってる?」 

 

 

疑いの目でにじり寄ってきて、俺の顔を覗き込んできた健ちゃん

 

思わず俺は健ちゃんの頭にポンと手を置いて、ストップを掛けた

 

 

ちょーっとちょっと!それ以上は接近禁止!

引き寄せられてチューしちゃったらどーすんの!

 

 

「ホントに思ってるって。あとは…そうだな。ボール来てもビックリしない事だな」

 

可愛過ぎる顔がちょっと隠れるように、健ちゃんの髪をクシャクシャに撫でた

 

 

「もうっ。やっぱバカにしてんじゃん!」

 

「アハハ!してないって」

 

 

グランドから「三宅!」って呼ぶ声が聞こえた

 

健ちゃんがペロッと舌出して肩を竦める

 

 

「いっけね。練習中だった」

 

「あ、悪ぃ。練習の邪魔しちゃったな」

 

邪魔したかったのは練習じゃないんですけどね

 


「じゃーね!明日、応援しに行くね!」

 

バイバイって手を振って、健ちゃんがグランドに戻ってく

 

 

あーあ。リア充で余裕とか…

全然じゃねーかよ

 

ハハ

まだまだ修行が足んねーな、ヨシヒコ

 

 

 

 

 

 

バレーの練習を終えて、打ち上げの相談と明日の準備をして、家に着いた時には9時を回ってた

 

 

流石の俺ももうクタクタで、母親が並べてくれた遅い夕飯を前に、ふうっと溜息を漏らした

 

 

「お疲れだな」

 

向かい側に座って晩酌してた親父が、俺にもビールを注いでくれた

 

「お、サンキュ」

 

コップに口を付けようとしたら、ポケットでスマホが短く鳴った

 

取り出して画面を覗く

 

 

 

画面の真ん中に表示された、健ちゃんのオレンジ色のアイコンと

 

「明日も頑張ろうね!」

 

短いひと言と、笑ってる顔文字

 

浮かんだ健ちゃんの笑顔が、ペッコペコのお腹とクタクタの身体にジンワリ沁みた

 

 

ん~

なんて返そっかな

 

『愛してるぜ!』とか書いたら、健ちゃんのモチベーション上がるかな

 

逆に引いちゃうか?

 

いや、引かねーな

 

うん。引かねぇ、引かねぇ

 

あ、やっぱ『大好きだよ』のがいいか

うん。そっちだな

 

へへ…

 

 

俺はどうやら相当ニヤニヤしていたらしい


 

「なんだ。なんかいい事でもあったのか?」

 

 

顔を上げると、親父が遠目にスマホを覗こうとしていた

 

ちょっ、見んじゃねーよ!

 

 

「別に。なんも無ぇよ」

 

返信途中のスマホを置いて箸を持った

 

 

そっけない答えが不満だったのか、珍しく親父が食い付いてくる

 

「それ、彼女からか?」

 

顎でスマホを指して、親父がグイっとコップの中味を飲み干した

 

 

「え?いや、違うけど…」

 

一瞬、答えを躊躇った俺

 

 

親父がフッて鼻で笑った

 

 

「別に誤魔化さなくてもいいだろ。ニヤニヤ気持ち悪い顔しやがって」

 

 

テメぇの息子捕まえて気持ち悪い言うな

製作者アンタだろーが

 

 

いつもならそんなふうに適当に言い返して、笑ってられるのに

 

健ちゃんからって正直に言うのも

友達からって嘘つくのも

 

なんだかどっちにしても、誰かに後ろめたい気がして

 

 

「…彼女居ねーし。いただきまーす」

 

それ以上喋らなくてもいいように、手を合わせるのも早々に飯を口いっぱいに放り込んだ

 

 

暫く間が開いて、空になったコップとビール瓶を持って親父が立ち上がった

 

俺は少しホッとして、ろくに噛んだ気のしない飯をビールで流し込んだ

 

 

 

「それ、八木の叔母さんからだそうだ」

 

「へ?叔母さん…って、俺に?」

 

 

親父が指した視線の先

 

電話の横に立てかけてあるちょっと立派な焦茶色の封筒は、真ん中に金色の文字で『御写真』と書かれてあった

 

 

それって…もしかして、あれか

見合い写真

 

 

「いやね、最初はお兄ちゃんにって話だったのよ」

 

 

台所から母さんが口を出した

 

 

「快彦はまだ学生なんだし、お見合いなんか早いって言ったんだけどね。せっかく持って来たんだからって置いてかれちゃって」

 

 

「彼女が居ないんなら、別にいいんじゃないのか」

 

 

親父がシレっとそう言って居間を出て行って、母さんが「断ってもいい」とか叔母さんが世話好き過ぎるなんて話を色々してたけど、全然頭に入って来なかった

 

 

見合い写真がどうって事じゃなくて

せっかちな叔母さんの事もどうでも良くて

 

 

今まで思考の外にあった『跡取り』って現実の問題が、頭のど真ん中にデーンと鎮座して

 

 

俺は余裕のよの字も無くなってた