あさイチ② | GIN@V6〜since20xx〜

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You've got the best choice!!

 

 

お勤めを終えて、本堂を出る

 

 

 

パチン!

 

 

小気味いい鋏の音がした

 

 

玄関脇の手洗い場を覗いて

いつものように寺の花瓶に花を挿す横顔に

いつものように声を掛ける

 

 

「けーんちゃん、おはよう。毎朝ありがとねー」

 

 

「ふふ、おはよ。井ノ原くん」

 

 

手元の花から視線を俺に移して、健ちゃんが笑った

 

 

花が揺れる

 

健ちゃんと一緒に花も笑ってる

 

 

 

「ありがとうはコッチのセリフだよ。これ、仕事だもーん」

 

 

「え、嘘だろ!?俺の為にやってくれてんじゃないの?」

 

 

「アハハ!なぁんでそうなるんだよ。ビジネスだろ!ビ・ジ・ネ・ス」

 

 

 

ハハ、分かってるって

だいたい俺、花ってガラじゃねーし

 

 

いいのいいの

 

花頼んでるのはウチのお袋だから、確かにウチがお客さんだけどさ

 

俺は、健ちゃんの笑顔に毎日ヤル気と元気貰ってんだ

 

ありがとうぐらい言わなきゃバチが当たるよ

 

 

 

 

「もうお勤め終わったの?」

 

 

「おう。ちょーど今終わった」

 

 

早く健ちゃんの顔が見たくって、最後はだいぶ早口になったけどな

 

仏様もそれぐらいなら許してくれるだろ

 

 

 

「よし。俺の方も終わり、っと」

 

 

健ちゃんが花瓶を元の場所へ運ぼうとしている

 

 

「あ、いいよいいよ。俺やっとくから」

 

 

「え?でも…」

 

 

「いいから。早く帰って支度しないと、遅刻するぞ」

 

 

「まだ大丈夫だってば。でも…ありがと。じゃあ、お願いします」

 

 

素直にそう言って、玄関を出ていく背中を見送る

 

 

門の前でクルっと振り向いた健ちゃんが、突っ立ってる俺に向かって叫んだ

 

 

「井ノ原センセ!ボーッとしてないで早く着替えなよ。遅刻しちゃうぞー」

 

 

ニッて笑って手を振って、健ちゃんが門を出て行く

 

 

おいおい『先生』は学校だけにしてくれよ

まだ俺、教育実習生だし

 

それに、なんだか照れくさいっつーか、こそばゆいっつーか…

 

 

 

おっと、いけねぇ。もうこんな時間だ

 

 

花瓶を元あった場所に置いて部屋に戻る

 

 

 

 

 

 

健ちゃんは、町の花屋さんのひとり息子

 

いや、ひとり娘のひとり息子だから、えっと…

ま、ひとり息子でいいか

 

 

お祖母ちゃんと二人で花屋を切り盛りしている

 

とは言え、健ちゃんはまだ高校生

実際動けるのは休みの日と学校に行く前、朝イチのこの時間と放課後だけなんだけど

 

 

お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが始めた花屋さんを無くしたくないって

 

健ちゃんにとってたった一人の身内

お祖母ちゃんと一緒に頑張ってる

 

 

どっちも大切なものだから

自分が守んなきゃ

 

いつだったかそんな事言ってたっけ

 

可愛い顔して、結構男気あんだよな

 

 

 

健ちゃんがこの町に来たのは

 

あれは確か…
俺が中学に入ったあたりだったな