アイネクライネ_2 ラジオ体操 | GIN@V6〜since20xx〜

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You've got the best choice!!

 

「ほら、早くっ!」

 

 

健が俺の手を掴んで走り出す

 

 

広場にはもうみんなが集まっていた

 

鳴り始めたラジオ体操の音楽

 

 

 

 

「んな急がなくてもいいって」

 

俺ら居なくても、始まるもんは始まる…っつーか、もう始まっちゃってるし

終わるまで着きゃいいだろ

 

 

健の手を振りほどいて

走ってるフリしてだんだん緩めて、下向きながらゆっくり歩いた

 

 

あー、あっち…

 

 

 

 

「あーっ!ごぉってば!はーやーくー!」

 

 

振り返った健がデカイ声で俺を呼んで

 

知らんぷりしてたら、わざわざ引き返して来やがった

 

 

…真面目かよ

お前だけ、先に行きゃいいじゃん

 

まあ

そんなことしねぇのは分かってるけど

 

 

 

「つっかまーえた!さ、行くぞー!」

 

 

後ろから俺を羽交い絞めにして、健がそのまま歩き始めた

 

 

 

 

は?

このまま行くのかよ

 

 

「遅れたらまた6年生に睨まれちゃうだろっ。ハンコ押してもらえなくなるじゃん」

 

 

 

…別にいいだろ、ハンコぐらい

 

全部押したところで

何か貰える訳でもねーし

  

 

 

「どーでもいいけど、あっちぃ…」

 

それに、歩きにくいって

 

 

 

「あったり前じゃん、夏だもん!」

 

 

「剛、今更何言ってんの」なんて、ケラケラ笑ってる

 

 

 

いや、そうじゃなくて……

 

ま、いっか

 

 

 

結局、その体勢のまま、ふたりしてノロノロ歩いて広場に着いた

 

 

 

 

 

「…お前ら遅っせぇ。もっと早く来いよ」

 

案の定、6年のヤツが怒ってる

 

 

 

そんなん別にどうって事ないのに

 

健が俺の脇腹を突っついて、ふくれっ面をした

 

 

「もぉっ、剛が走んないからだぞ!」

 

 

は?

 

フツーに歩けばもうチョイ速かったっつーの

どっちかっつったら、お前のせいだ

 

 

 

健の文句を無視して1番後に並んだら、前のやつがふり向いた

 

 

「剛、捕まった宇宙人みたいだったな!」

 

デカい声に、みんなが笑った

 

 

 

…るせぇ、誰が宇宙人だよ

いいから、真面目に体操しろ

 

 

 

「アハハ!ごぉ、宇宙人だって!」

 

俺の横に並んで体操しながら、健がこっち指差して大笑いしてる

 

 

るせぇ

それもお前のせいだっつーの

 

 

 

健がいつまでも楽しそうに笑ってるから

 

「真面目にやれ」

 

手を挙げた隙を狙って、健の脇腹を突っついた

 

 

 

「わはっ…なぁにすんだよっ!」

 

「お前の声が宇宙人だろ」

 

「うるさーい!」

 

 

っバカ、お前、声デカイ

 

 

 

 「おい、三宅うるせぇ…」

 

 

また6年に怒られて、健がペロッと舌出した

 

 

みんなが笑って

 

健も笑ってたから、俺も笑った

 

 

 

 

 

 

 

 

他のヤツとはちょっと違う健の声

 

 

どこにいたって、すぐコイツだって分かる

 

 

 

「ごぉ!」

 

 

健に呼ばれたら、顔見なくたって

ひまわりみたいに笑った顔が浮かんで

 

 

真冬だって、寒いの吹っ飛んで

なんか温かくなってくる

 

 

 

 

健の声が好きなのかって聞かれたら…

別にそういう訳じゃ無いけど

 

 

 

健が俺の傍にいるのが当たり前だから

 

健の声が聴こえるのが当たり前で

 

 

 

当たり前が、当たり前じゃなくなるなんて、考えもしなかった

 

 

 

 

 

「面白い声」っていじられても

 

「うるさいよ」って健は笑ってた

 

 

 

 

そんな、なんでもないような言葉が

 

 

ちょっとずつ

 

健の心の中に降り積もって

 

 

 

いつの間にか

デカい氷の塊みたいになってた事に

 

なんで俺は気付けなかったんだろう

 

 

 

 

一番近くで

 

一番健の事見てた筈なのに