多分、さっき通り過ぎてった消防車だろう。公園の向こうに止まっていて
二階の窓から火の手が上がっているアパートが見えた
あ、火事だ
「…嘘だろ…」
って聞こえた気がして隣を見ると、アパートを見つめて呆然とする彼
「嘘だろ」って…
えーっ!？嘘だろ？
「もしかしてあれ…」
「ウチ…あの下…の階…なんです」
マ、マジか？
えーっと、とりあえず…
彼の背中に背負われてる小僧を、上着ごと掴んで抱きかかえた
「俺、見てますから。行ってきて下さい。」
子供背負ったままじゃ、身動き取れないだろ。幸い、パパ大好き小僧は爆睡中だ
少し躊躇いながらも
「すみません。お願いします」
頭を下げて、公園の中をアパートに向かって走ってった
保育園に戻ってると言った方が良かったか…
いや、見た感じ、燃えているのは二階の一部分だけで消火は早そうだ
騒ぎが収まれば、ウチの中に入れると思うけど、寝泊まりは…多分無理だろうな
もし、保育園の手続きに来た人がお祖母ちゃんだったとしたら、割と近くに実家があるのかもしれない
頼る所があるのなら、俺がしゃしゃり出る必要ないだろうし…
とりあえず、彼を待つとするか
近くのベンチに座って、寝てるヤツが寒くないよう、足先まで上着で包んだ
膝枕してベンチに寝かせるよりは、自分にくっつけといた方が寒くないだろ
膝の上で横向きに抱きかかえて、自分の着てるコートの中にすっぽり入れて包む
ほっこり暖かくて
なんだか心地いい
しばらくすると、俺の抱き方が窮屈だったのか、それとも包み過ぎて暑かったのか
上着の中で、もぞもぞ動き出して
「ん……けん…」
なんて寝言が聞こえて
あ、ヤバイ…
もしかしてパパ探してんのか？
こりゃ、目覚したら泣いちゃうかな…
俺、誘拐犯か何かみたいじゃね？
横抱きにしてたのを、向かい合わせに抱っこして、肩に頭をくっつけた
小僧の背中をゆっくりと
トン…トン…って叩いてみる
おっ…よしよし…落ち着いたかな
と思ってたら
「け…ん…おやすみ…の…」
ん？
ちっこい手が俺の頬を両手で挟んで
え？
目瞑ったままの顔が近づいてきて
は？
…チュッ
あ…
そのままコテンと俺の肩に頭が乗っかって、またスースー寝息が聞こえてきた
おいおい…
頼むから起きるなよ
今起きたらなー
多分、ビックリし過ぎて
お前の心臓、シジミになっちまうぞ