通りに出て少し歩く
車が横を通り過ぎてく度に
吹く風が冷たくて
2人まで届かないよう、少しだけ自分の歩くテンポを遅らせた
やっぱり上着持ってきて正解
まだ吐く息が白くなる程ではないけど、寝てるヤツにしたら寒いよな
背中から聞こえる寝息を確認してから
思い出したように彼が口を開いた
「あ、そうだ。昨日はありがとうございました」
ペコリと頭を下げて
ん?何のことだろう
「連絡帳すごく嬉しかったです。剛の様子、気になってたので」
「連絡帳すごく嬉しかったです。剛の様子、気になってたので」
そういや普段より5割増ぐらいのボリュームで書いたな。喜んでもらえて良かった
…別に、えこひいきじゃない
初登園だったし、書く事もあったし
「それと、持たせて頂いた剛のおやつ。とっても美味しかったです」
そうか。それも良かった。
「剛は何にも教えてくれなかったけど、昨日2人で内緒って話してたの、アレのことですよね?」
内緒にしといて、魔法みたいにケーキを出してやるっていう作戦は、どうやら成功したらしい
「剛が目を瞑れって言うから、何かと思ったらバナナケーキ口に入れてくれて」
嬉しそうにクスクス笑って
目を閉じさせて口に?…俺もやってみたいもんだ
あ、そういや結局、ちっとも家の話できなかったな…
「今日はお話出来なかったので、やっぱり後日改めてお時間作ってもらえますか?三宅さんの都合のいい時で構いませんから」
時間作って欲しいって言われて
また…ドキドキした
お仕事だもんね
彼は園長先生で、俺は保護者で
彼は園長先生で、俺は保護者で
うん、分かってる
遠くで聞こえたと思ったサイレンが、だんだん近づいてきて
並んで歩く俺達の横を消防車が通り過ぎていった
あ、剛起きちゃったかな?
少しピクッと動いたけど…
背中を振り向こうとしたら
「しかし…意外と起きないもんだな」
園長先生が少し上着を捲って、剛が眠ってるのを確認してくれた
ふふっ…
「大丈夫みたい。もう寝息が聞こえる」
先生と目が合って、2人で笑って
なんだか嬉しくて
園長先生
本当、優しくって素敵な人だな
ドキドキは…しょうがないや
自分がしっかりしてれば大丈夫
通り過ぎて行った消防車の向かった先が、ちょうどウチのアパートの方向だったから
火事かな?あんまり近くじゃないといいんだけど、とは思っていた
ちょうどアパートの裏手側にある公園にさしかかる
沢山の野次馬と
さっき通り過ぎて行った消防車
火の手が上がって、放水されている…
え?ウチのアパート?
う、嘘だろ…