…面倒くせーな。
なんで俺が、大学生の小僧相手に会社の事なんか説明しなきゃいけないんだ。
覚えてろよ井ノ原。
いずれこの貸しはきっちり返して貰おう。
学生向けの会社説明会。
人手不足だからと人事部に駆り出され、今に至る。
俺の発するオーラのせいか、ウチの会社のブースにはほとんど誰も寄ってこない。
さっき、冷やかしみたいなのが2、3人つるんできたけど、説明しててもうわの空。
思わず「お前ら人の話聞く気あんのか?」って凄んだら、そそくさと席を立って行った。
小僧どもが…怖じ気づきやがって。
会社入ったらな、仲良しこよしのお友達ごっこじゃ仕事にならねんだよ。ザマーみろ。
さて、タバコでも吸いに行ってくるか。
立ち上がって、ブースを出ようとした。
「よろしくお願いします」
エントリーシートを持った華奢な男。
一応リクルートスーツは着てるけど、茶髪にピアスって、どう見ても真面目に就活してるヤツの格好じゃねーだろ。
「すぐ戻る。ちょっと待っててくれ」
冷やかしなら、戻ってくる頃には居なくなっているだろう。
でも、何故かこいつは待ってるような気がして、ゆっくりとタバコをふかしてる気にはならなかった。
一服して、小走りにブースに戻る
おっと、もう一人座ってる。お友達?
…でもなさそうだな。
会話もなく、ただ隣に座ってるだけだ。こっちは真面目でなーんか几帳面そうだな。
スゲー対照的な二人が並んで座っている。
色でたとえるなら、そっちが赤でこっちが白。
どんな色にも染まれる白っていうより、むしろ全ての色を拒絶する白ってところか。
俺が話しを始めると、やっぱりさっきまでの奴らとは違っていて、ウチの会社の事をよく勉強してきてるのが分かる。
質問の内容も的を射ているし、こちらからの問いかけにもそれなりの答えが返ってくる。
一通りの説明を終えると、二人とも席を立って別々に歩き出した。
やっぱり、連れじゃなかったか。
とりあえず、赤いヤツの方を追いかけて呼び止める。
「森田くん」
「はい」
一応そう返事してるけど、どう見ても
「何か用かよ、おっさん」
てセリフの方があってる顔だな。
「ウチの会社に来る気あるんなら、髪とピアスどうにかしろ。俺以外が面接担当なら120%落ちる」
一瞬ポカンとして、視線を床に落として
フッて鼻で笑ってから、睨むように俺を見上げた。
「なら、坂本さんが面接してください。じゃあ失礼します」
見た目も態度も良くないそいつが、何故だか妙に気になった。