10月に入って店はハロウィン仕様になり、フロアの飾り付けやメニューが秋色に変わった。
来週末には、ちょっとした企画もあるらしい。
俺がこの店に来て最初のイベントだ。どんな事するんだろう。
営業時間が終わって休憩室に行くと、イベントに使うらしいグッズが色々と並べてあって、みんなが打ち合わせをしていた。
「例年通り、当日ホールは全員仮装な。長野、衣装確認しといて。夜営業は、明かり暗めで。剛、メニューもちょっと変えようか。」
確かその日はシフトに入ってはずだから、俺も仮装すんのか。
どれどれ...
何かドラキュラっぽいのとか執事みたいな衣装もある。坂本さんが着たら、すげー似合いそう。あ、でも厨房は仮装しないのかぁ、残念。
女の子たちのは、カボチャ色のブラウスにコウモリみたいな羽着いた黒いミニスカートか。小悪魔みたいで可愛いな。
長野くんがシフト表を見ながら、人数と衣装を確認している。
「あれ…男の衣装一着足りないや。女子用は余ってるんだけど、どうしようか」
「新しく買う予算なんかねーぞ。」
坂本さんもシフト表を確認してる。
「んー…ん?……ちょっ、剛。」
坂本さんが指で、森田くんにこっち来いって合図をする。長野くんも交えて3人でこそこそとシフト表見ながら話をしている。
今まで俺には関係ねぇって顔してたくせに、森田くんはなんだか楽しそう。「ウヒャッ」なんて笑ってる。
でも、なんでコソコソしてんだろ?
3人がニヤニヤしながらゆっくり振り返った。
あ…なんだか嫌な予感がする。
「衣装足りないけど、仮装するって決めてるしなー。予算もないし。誰か女子のサイズ入る奴いねーかなー。」
「あれ?三宅シフト入ってんじゃん。三宅なら着れるんじゃね?」
「剛、それ、いいアイデアだね!健ちゃんならサイズオッケーだし、きっと似合うよ。」
…なんなんだよ、その小芝居。
魂胆見え見えだろっっ。
学祭とかでメイド喫茶とかやる事になると、なぜか決まって俺だけ女装させられるんだ。
「ちょ、着てみ?」
森田くんが衣装を持って来た。
3人が、瞳をキラキラさせて俺を見つめてる。
…
ハイハイ。分かりましたよ。着りゃいんだろ?着りゃ。
がっかりしても知らないよ?俺こう見えて、しっかり男なんだから。
ロッカーの方に行って、衣装を着てみる。
やっぱり腕の辺りがちょっと窮屈だけど…まあ、入らない訳じゃない。
でもさ、ミニスカって…足どーすんだよこれ。いくら何でもヤバいだろ。
「健ちゃんできた?」長野くんが見に来た。
「やばいね。」
でしょ?だから言ったじゃん。無理。
「どれどれ。」
長野くんの後ろから坂本くんが覗いて
「やっべ…」
その横から顔を出した森田くんが、ぽかんと口を開けた。
3人とも、俺を見たまま固まってる。
だからさぁ…がっかりさせて悪かったよっ。しょーがないだろ?男なんだもん。
「コイツ、店に出したらまずいんじゃね?」
森田くんが眉間にシワを寄せた。
え?
…自分で言うのもアレだけど、足以外はまあまあ…イケてるかなーなんて思ったのに…ちょっとショック。
「確かに。他の女の子引いちゃうよね。」
「男性客に狙われる。危ない。」
坂長発言に、森田くんもブンブン首振って頷いてる。
あ…なんだ。そっち?
なんか、嬉しいような、嬉しくないような…
結局、俺は女装を引き受けた。
坂本さんと長野くんは喜んでくれたのに、何故か森田くんの眉間のシワは消えなかった。
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