三蔵法師が善悪を区別せず
人間と妖怪を分けないので
孫悟空は多くの苦難に見舞われたと私たちは考えている。ー
例えば、『三戦白骨の霊』では
明らかに孫悟空は鬼と戦っているのですが
三蔵法師はそれを人と言わざるを得ず
孫悟空を花果山に追い返してしまった。
———
三蔵法師が孫悟空を不当に扱ったのは事実だが
それは我々読者が『神の視点』に立ったからわかることだ。
もし、我々が三蔵法師の立場から見たら
一家が目の前で生殺しにされていたら
怒るべきではないのか。
もちろん、三蔵法師は孫悟空が
燃えるような目をしていたのを知っていたのだから
孫悟空を信じるべきだったと言うだろう。
しかし、孫悟空は本当に完全に信頼できるに値
するのだろうか。
———
紅子(妖怪)が、難を持った子どもの化けた時
三蔵法師は孫悟空に彼をおぶらせた。
孫悟空の気持ちとしてはこの通り。
“この山はただでさえ険しく
身ひとつで登るのも容易く無い。
それにも関わらずおぶるとは。
この下僕の莫が言うには彼は妖怪で
いいひとだと。彼には両親がおらず
誰に詰め寄るかわからない。
それよりも殺した方がいい。”
見よ、例え良い人であったとしても
殺した方がいい。
これが本当の孫悟空なのだ。
三蔵法師が孫悟空の能力を知っていて
しかし彼の殺傷本能も理解していたから
毎回孫悟空が人間に化けた妖怪を殺す度
三蔵法師は孫悟空を信じるかどうか揺れた。
そして最終的に
信じないと言う選択をしたのだ。
当然我々には腹立たしい。
孫悟空を信じないなら
妖怪に食べられてしまえ。
しかし
三蔵法師の視点に立つと
妖怪は私を食べてしまうかもしれない
と言う思いと
私は無実の人を殺してしまうかもしれない
という二つの重なる関係に
我々とは違った考えを持っていたのである。
つづく

