笑い話をちょいちょい挟んでいきたいと思っています。

笑えるかどうかということもありますが、見てくださった方の日常の緊張をほぐすくらいを目標に創作しています。今回もコント台本風です。

演目 出張のサラリーマン

人物 青年会社員、民宿の腰曲がり老婆、20代の女性幽霊、80代の男性幽霊。

出張に来た会社員の青年が、田舎でようやく民宿を見つけて部屋に入るところから始まります。

 

(ボロい民宿のボロい部屋。夜遅く)

老婆「では、ごゆっくり」

(障子を閉めて出て行く)

(ドアはなく、障子の外が廊下)

青年「なんか薄気味悪い婆さんだな。まぁ宿があっただけいいや。コロナのおかげでみんな廃業か。客はオレひとり。静かだな。着替えるか」

(ズボンを脱ぎパンツになる)

(ガラッと障子が開き、老婆が)

「夕食は何時にするかね」

「(パンツ隠して)いきなり開けますか? お腹すいているんで直ぐでいいです」

(老婆、障子を閉める)

「なんだよ、ノックするとか声かけるとかさ」

(脱いでパンツと靴下だけになる)

(ガラッと障子が開く)

「あ~っ(青年、身体を腕で隠す)」

「風呂は壊れているから入れねぇズラよ」

「え?わかりました。あの、開ける時はノックするとか~」

(話の途中で障子を閉める)

「なんだよ」

(すぐ開く)

「わ!」

「ここ時々、おかしなもんが出るけど気にせんでいいズラよ」

「え?おかしなもんって何ですか」

(障子閉める)

「ちょっと何ですか、おかしなもんって、怖いじゃないですか」

(すぐ開けるが老婆はいない)

「あれっ?もういないよ。怖ぇな~脅かしやがって。」

(障子を閉めて浴衣に着替える)

「さ、気を取り直して今日の精算やっておこう」

(ちゃぶ台にノートや電卓などを出して計算する)

「ひと駅分は歩いたから、請求はして230円はオレの儲け。昼飯抜いたけど、得意先と3人で食ったことにして2850円。この宿も白紙の領収書をくれるって言ってたから少し上乗せして2500円。しめて5580円の儲け。やったぁ、いいぞオレ。頑張れサラリーマン」

(障子の外から女性の声が聞こえる)

「い~けないンだ~いけないンだ~、聞ぃ~ちゃった~聞ぃちゃった~」

「(イラっとして)ちょっとお婆さん、なに立ち聞きしてンですか」

(障子を開けると白装束の女性が立っている)

「わぁ~!(のけぞって腰が抜ける)だ、だ、だ、誰ですか、あなた」

「誰に見える?」

「ユ、ユ、ユ、ユーレイ」

「ピンポーン。正解です」

(障子を閉めてずかずか入り、ちゃぶ台横に胡坐をかいて清算書を見る)

「せこいことやってんだな、オマエ」

「(怖くて声にならない)あわぁ、わぁ、わぁ」

「いつもこんなことやってんのか」

「あわぁ、わぁ、わぁ」

「この程度の小銭かせいで満足してんのか」

「あわぁ、わぁ、わぁ」

「聞いてんだよ、このヤロウ!」

「わ~っ、ごめんなさい、怒らないで、助けてください」

(老婆の声)

「ごはんお持ちしましたよ」

(開けて入る。青年は老婆の後ろに隠れて腰の辺りを両手で押さえる)

「何すんだ」

(青年、手をはなさない)

「こんでも少しは感じるズラよ。(手を離さない)あんたは欲求不満か」

「あ、あ、ユーレイ、ユーレイです」

「(ご飯を置きながら)ばかこくでない。(青年を振り払い)さっさと飯食って寝るズラ」

「待ってください、お婆さん」

「(怒って)誰が婆さんだ」

「ごめんなさい、仲居さん、あ、いや中川さん?中島さん?あ、女将さんだ」

(老婆は障子をピシャリと閉めて出ていく)

「(女幽霊が青年に)座れ」

「(びびって動けない)」

「(怒鳴る)座れ!」

「はい!(さっと座る)」

「(ノート見て)ここんとこな、スーパー銭湯いじれば、これだけ出る」

(電卓を青年に見せる)

「ここは道の駅にして、ほら」

(電卓見せる)

「あ、すげぇ。気付かなかった。よくわかりましたね」

「当たり前だろう、これでも私は労金の経理をやってたんだ」

「え、労金ですか。生きてるときですか」

「当たり前だろう。これでも仕事の評価は高かったんだ。(思い出して)あの男に会いさえしなければ」

「辛いことがあったんですね」

(女幽霊がうなずいて涙ぐむのを見て)

「なんか本物の人のように見えるんですけど」

「(思い出して涙ぐんでいる)」

「ユーレイには見えないです」

「(思い出して涙ぐんでいる)」

「よく見ると美人ですね、いやキレかわいいか」

「オマエ、ナンパする気か」

「違いますよ」

「(キレて)てめぇ、なめるんじゃねーぞ!10年早ぇーよ!」

(青年の襟首を締め上げる)

「助けて!助けて!」

(障子の外から声がする)

「やめなさい」

(ガラリと開けて入って来たのは、ふんどし一丁の老男性幽霊。二人あっけにとられたまま。老人はちゃぶ台に着き膳をながめる)

青年「ど、どなたですか」

老人「わしか?わしはユーレイじゃよ」

青年「(のけぞって)ひぃ~っ」

女性「何しに来たんだ?じいさん」

老人「小腹が空いたのでな」

青年「いったい何なんですか、あなたたちは」

(老人、飯を食い始める)

青年「ユーレイが飯食ってる」

老人「悪いか?」

青年「いえ」

老人「しょう油はどこだ」

青年「知りません」

女性「(老人に)オメェに用はねぇんだ。出て行けよ」

老人「うるせー(食事を続ける)」

女性「このヤロウ!」

(老人と女性の取っ組み合い。ちゃぶ台がひっくり返る。止めに入る青年)

青年「やめてください、やめてください」

(ドタンバタン)

(障子が開き、老婆が大声で)

「静かにしねぇーか!他のお客さんから、うるさいと苦情がきてるズラ」

(青年、老婆の足元にしがみつき)

「助けてください」

「何しとるダニ」

「ユーレイ、ユーレイ」

「だからどうした」

「この部屋、替えてください」

「満室ズラ」

「だって客は僕ひとりしかいないって言ってたじゃないですか」

「ユーレイ以外はな」