フレンチ・レストランを評価する時のポイントは、人それぞれだろう。
①とにかく料理の味。
②サービスと居心地の良さ。
③立地と空間の豪華さ。
④総合力。
この店「タテル・ヨシノ」の吉野建シェフの場合、若い頃は①で選ばれる人だったと思う。
店は小田原だったり、本場のど真ん中のパリだったり。
その頃は、料理の凄さで人を惹きつけ、評価を得るしかなかったのではないか。
私は小田原時代は知らないが、パリでは、次々と編み出される新作料理に、ただならぬ凄み、後がないという切迫感が漂っていた。
今、円熟期に入り、キャリアの最晩年を過ごす吉野氏にとって、銀座の店の評価ポイントは、②や③や④へと移っているように感じる。特に④だろう。昔のように尖った新作は、もう出てこない。でも、もしこの店を「ハレの日利用」で使うなら、きっと間違いないだろう。
晩夏のコース料理。
アミューズの定番、ビーツのムース。下にはコンソメジュレが忍ばされている。
女子ウケが狙える一品。
甲殻類のジュレに、鮑などを浮かべた前菜。いくらがちょっとキツい。キャビアも使うなら、もっとしっかり載せるべきだし、極少量ならなくてもいい。
炙った栗の葉の下には、フォアグラとセップ。葉っぱはやや苦し紛れ。でも、葉っぱがないと、ものすごく普通の見た目になるので、致し方ないという感じ。食べると、ストレートに美味いのだが。
鰻と旬の野菜のクリームソース。藁で香りづけしてある。軽い仕立てだが、もっとクラシックで攻めてほしい気も。
鱧とジロールのリゾット。鰻~鱧と長物リレー。昔ならこんな風な日本食材の使い方をしなかっただろうにな、と思わぬでもない。
魚料理は、スジアラ。火通しもソースも及第点なのだが、しかし1年後も覚えていられるかと問われると、答えに窮す。
ババン・バ・バンバンバン、と風呂にでも入っているかのようなヴェッシー。豚の膀胱包みの中身は、鳩。
普通は鶏なので、少し面白い。淡い火通しで、ソースも軽やか。でも、胃袋にドシンとくるソースを期待している自分がいる。
いろいろと難癖をつけたが、吉野シェフ健在の間は、通い続けるだろう。