自分の料理を客が食べる空間について、その美観をおろそかにするような料理人は、それまでのレベルの人。
一国一城の主であるオーナー・シェフともなれば、自らの美意識を体現する場所として、ダイニングの美的向上に励むのが普通だろう。
ただし、それには先立つモノが必要だ。
このコロナ禍で経営的に余裕のある店などほとんどないだろうが、しかしこの時期に内装工事をするという、ちょっと他では聞かないことをやってのけたのが、ここ「ル・スプートニク」だ。
内観の写真は撮っていないので、何がどう変わったかを見せることはできないが、長期化するコロナにも合わせつつ、素敵な内装に様変わりしていた。
料理もスタッフのスキルも、そして空間も向上していくこの店から目が離せない。
夏のアミューズは、枝豆のチュロス。
続いて、殻の中にウニとトリ貝、じゅんさいを詰めた、やや和に寄った冷前菜。
最近凝っているのだろうか、バジルとベーコンのシフォンケーキ。お届けBOXにもシフォンケーキが入っていたけど、レストランで食べるには何とも地味で、趣味でやっているカフェで出てきそうな見た目である。
バターナッツと赤いかの前菜。バターナッツはソース、ムース、チップスと3形態でその甘味を主張。赤いかの適度な歯ごたえからにじみ出るほの甘さと共鳴して、とても面白い取り合わせ。
写真が撮りにくいヤツ。鱧とハーブ色々の生春巻き。透明で見えにくいが、皿にぴたっと皮がついていて、それを自分で巻き巻きする。巻き上がった時には片手が塞がっているし、衛生的にも何なので、写真が撮れない。健康的で、ちょっとアジアン・テイストだし、目先は変わるのだが、巻いて出してよ、と言いたくなる。
岩手の牡蠣のポトフ仕立て、モロヘイヤのソース。岩のりバターが牡蠣と寄り添い、一粒だけだが、立派なフレンチに仕上がっている。
せめて3粒食べたい。
遊び心というやつだろうか。牛テールの煮込みが入った肉まん。不用意にバクッとかじったら、男子高校生の行き場のない情念のようにピューッと汁が飛んで、危うくシャツが汁まみれになるところであった。高橋シェフが何を考えているのか、時々分からなくなる瞬間であった。
足赤えびという海老のグリーンカレーソース。緑なすとししとう、ハーブが添えられ、見た目以上にタイ風である。普通のフレンチを作るだけでは飽き足らなくなった模様。
そうかと思ったら、突如、どクラシック。パテアンクルートのお出まし。こういう、オーソドックスなものを作らせると、やっぱり腕の良さが明確に伝わってくる。
魚料理は、マナガツオとおかひじき。しっとり火通しされた淡泊なマナガツオに、しゃきしゃきの食感と緑の風味が加わり、和でも洋でも食べたことのない味わい。
和歌山産の仔猪のロースト。小さい個体で、肉質が誠に繊細。あばら5本分でこの量。まだ乳のみマルカッサンだったのだろうか。合掌。
色々なことに挑戦して、やや脱線気味のようでもあるが、客には常に驚きと発見をもたらしてくれる。
定点観測が楽しい店だ。