東京フレンチ界の先頭集団の一角、であることは間違いないだろう。
その割に、あまり話題にならないのは、料理が正統派、クラシック方向だからと思われる。
おかげでこのレベルなのに予約が取りやすいのは、ファンにとってはありがたいことである。
シェフはいよいよ、火入れの細部にこだわるようになり、食材の持つ長所を引出し、短所を減滅させることに心血を注いでいる。
同じ食材でも、他店で気になる嫌味、苦み、生臭さの類が、ここでは上手に抑えられているのが素晴らしい。
アミューズはいつものブーダン・バーガーなど。日本鹿のパテなど、小さいけどちゃんとした味。
セルヴェル・ド・カニュも面白い。
イカとホタテのムースを詰めた甘長にパートを巻いたもの。スープ・ド・ポワソンのソースに、ピマント・エスプレット。
煮詰めた魚介スープのソースが、甘長の青さにほどよく太刀打ちしている。
卵黄をまとったカマスとピペラード、シェリーの泡にトマト名人が作った甘いトマト。チョリソで風味づけしてある。
写真では伝えきれない、凝った前菜。
仙鳳趾 の牡蠣を51℃の鳥のブイヨンでほんのり火入れしたもの。黒オリーブオイルが香りのアクセントに。
とてもミルキーで、生よりも旨みが膨らんで伝わってくる。
根室のタラバ蟹と九条ネギのエチュベ、松茸に栗をおろしたもの、甲殻類のコライユのソース。
日本食材を巧みに使いながら、クラシックなフレンチの領分を守っている。
京都舞鶴産の白かじきを藁でさっと炙ってから低温で火通ししたもの。プッタネスカ的な味わいのズッキーニに、甘いぶどうジュースをベースにしたプロヴァンサルなソース。
とにかく、白かじきの火通しが素晴らしい。しっとりとした舌触りと、じんわり広がる脂が見事。
ロニョンとセップのボルドレーズ。からしみず菜とアンディ―ブをフルムダンベールで風味づけ。
内臓料理も得意なシェフ。このあたりの変化のつけ方も、コースの構成として上手。
舌平目のボンファム風。超王道フレンチ。だが、軽い仕上がりで、帝国ホテルのとはまた別モノ。
メインは、スコットランドの沼ライチョウ。今期、初。
51℃のオイルバスでゆっくり火通しした肉は、苦みがなくきれいな血の風味が伝わる。
胸肉はペリグーソースで。
そして腿はイチジクとフォアグラを添えて、サルミソースで。
2段サービスの店は多いが、ここまで手の込んだ第2皿を出してくる店は少ない。
料理だけで1人3万近くなるだろうか。
高いけど、払う価値がある店だ。