一緒だったフランス人の友人が嘆息した。
「レストランの裏側なんか、見ない方がいいな」と。
それほど広くない厨房は、かなり雑然としていた。調理途中の寸胴が床のあちこちに置かれ、動線が機能的ではなく、とっちらかっている印象。
磨きぬかれたステンレスと銅鍋に、真っ白なコックコート・・・、星付き名店に客が抱く勝手なイメージは、幻想でしかなかった。
移転後の「フロリレージュ」に初めて行ったが、ここは見事に厨房が丸見えである。
コの字のカウンターがキッチンを囲み、調理の人たちは四方八方から客の視線にさらされる。
劇場型、という表現がぴったりだろう。
整理整頓と調理技術に自信がないと、なかなかできないことだ。
スタッフは、みな若い。はっきりいって、こんな人達が作っているのか、とちょっと心配になる。
シェフをのぞけば、キャリアは一桁年数ではなかろうか。
丸見えキッチンも、スタッフも、高級感や重厚感とは対局にある。
しかし、出てきた料理は、予想を裏切って結構まともなものであった。

のど黒飴のキャラクターかと見まごう、初手のアミューズ。
外は焼きナスの焦げた皮を練り込んだラビオリに、中はナスのピュレ。
皮がやや厚ぼったく、ピュレもぼんやりした味で、あまりピンとこない。

「海のもの、山のもの」と題された、アオリイカと桃の料理。
山形の黄金桃にヘーゼルナッツのソースをかけ、キャビアをあしらっている。
かなり大胆な構成だが、桃とイカ、それほど違和感はない。

この鮎の料理はなかなか。
開いた鮎の中にキモソースを挟み、網脂で巻き上げたもの。新潟産の天然舞茸とフォアグラが添えられている。キモの苦味が鮮明で、鮎出汁のソースも深みがある。網脂でパンチをつけた分、鮎そのものの持ち味が薄れたように思わなくもないが、力のあるシャルドネとは引き合う。

軽い干し肉にした熊本の赤牛に、フュメしたいもピュレ。これにとろみをつけたコンソメをかけたもの。
味が詰まった赤牛とコンソメが相乗。上にのせたプラムの酸味もいいアクセント。

温かい牡蠣と冷たい牡蠣のピュレの温度差を楽しむ料理。
おかひじきの揚げたものと茹でたもの、これにレモンのメレンゲを散らしている。
温度差はさほど印象に残らないが、揚げたおかひじきと牡蠣が良く合っていたことは記憶に残る。


分かち合う塊肉、というタイトルで出てきた国産のホロホロ鳥。
見事な焼き加減だ。皮は行き過ぎない程度にパリッと、身は上手にしっとりさせてある。
そもそもの素材もいいのだろう。日本人が凝って育てたら、すぐにこのレベルにまでなるのだなあ、と感心。

魚料理は、キハタ。ウイキョウをのせ、ブイヤベースを詰めたソースをかけている。
黒にんにくのルイユは利いているが、じゅんさいを散らしたのは、あまり意味が無い。

メイン、というにはかなり小さい、茨城県産の小鳩料理。
火から出したり入れたりの低温調理で仕上げたもの。タイトルは「原点」となっている。
もはや驚く調理法ではないが、しかしこれもしっとり滑らかに仕上がっている。
ソースは内蔵を使ったものだが、血の味に嫌味がない。素材の良さは明らか。
できれば、半身ほど食べたいところ。



デザート3種で終了。
カンテサンスより何割か安く、出てくる国産食材のレベルは負けず劣らずハイレベル。
業界人ぽい客層は好かないが、店がやろうとしている方向性には、共感するところもなくはない。
1度では判断がつかないので、何度か行ってみようかと思う。