ハイアットリージェンシー箱根の金山某というシェフ。
レカン、コートドールを経て渡仏し、ブリストルなどで腕を磨いたというから、ピカピカの修行歴である。
40代半ばで、料理人としては最も脂の乗った時期だろう。
そんな御仁が、外資系とはいえ、中途半端なコンセプトの地方ホテルで宿飯を作っている。
行くたびに思うが、このハイアットリージェンシー、ファミリー向けなのか、カップル向けなのか、ラグジュアリーなのか、隠れ家なのか、それとも単なる中規模宿泊施設なのか、よく分からないホテルだ。
夕方、ラウンジでシャンパーニュなどを無料で提供するのだが、その際に集まる客層がてんでバラバラ。
所得の面で想像すると、アッパーミドル層が主体のような気がする。
シェフとしては、ハイエンドな料理を出して、客を喜ばせたいのだろう。
だが、それでは客の総体が期待するところとマッチしない。
就任当初に泊まった時には、結構進んだ料理を出していたが、今回は最大公約数的な姿勢が顕著であった。
要するに、退屈になったということだ。

前菜は、フォアグラのテリーヌに青りんごのキャラメリゼをまとわせたもの。
洒落た料理に見えるが、これにウナギを加えたら、マルティン・ベラサテギの出世作を「トレース」(今の流行り言葉ね)したものになるような気がしないでもない。少なくとも、90年代の発想から出ていないということは言えるだろう。

魚料理はイサキのポワレ。火の通し方など、スタッフへの教育は行き届いているようで、大箱レストランでも、一定の水準を保っている。これはすごいことだと思う。
ただ、料理としては新味はない。

オマールとホタテの料理。ナスのババガヌーシュのようなものを添えている。
本当に、可もなければ不可もない皿。

メインは選択の余地もあまりなく、牛ヒレのロッシーニ。
ブリオッシュの上にフォアグラを載せるスタイルが新しい、というような趣旨のことを店員は言っていたが、別々に食ったら意味がないし、一緒に食ったら肉の上に載せても同じ事、ではなかろうか。
決して不味くはないが、華麗なる修行歴のシェフが創造するにしては、釧路国際観光ホテルでも出てきそうな料理で寂しい(釧路国際観光ホテルというのは想像で書いた架空のホテルです)。
腕を持て余すシェフのためだろうか、「金山康弘氏が一夜に限られた数のお客様のために自ら腕をふるうプライベート空間『シェフズ ターブル』」というのがあるらしい。シェフの本気を食べたければ、これを予約せよ、ということなのだろう。
しかし、シェフズまではたぶん英語で、ターブルはフランス語のカタカナ化・・・、ちぐはぐでダサい。
東京で独立しないのなら、このシェフズ・ターブルなるものを試しに行こうか、と思わなくもない。