土台の定まった創作和食 祇園 魚亀 | 御食事手帖

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主に東京と湘南で食べ歩き、でも美食のためならどこへでも旅するブログ

味覚というのは、経験や記憶によって磨かれていくものだろう。
しかし、人間の記憶というのも、相当アテにならない。
常にアップデートとチューニングが必要である。

日本料理に関しては、定期的に京都へ出かけるように心がけている。
東京にもハイレベルな料理屋はゴロゴロしているから、別に京都へ出かけなくても――、という人も少なからずいる。
各人、自由にすればいいが、私は京都は何度行っても飽きないし、発見があって面白いと思う。

今回の旅で最も印象が深かったのは、祇園の雑居ビルにある「魚亀」という店。
魚屋兼仕出し料理屋から始まって、今で三代目の主人はカウンターでの客商売に変じた。
料亭で腕を磨いただけあって、三代目の料理は和の基本に忠実だが、一工夫があるものが多いのが特徴。


突出しは、和牛と京湯葉のしぐれ煮。
こういうのを、おばんさいというのだろうか。
素朴な家庭料理のようだが、しかしプロが作ると一段違って美味い。
京都なのに、意外と甘辛く、酒もいいが飯も欲しくなる味。


こちらは、豚肉と山科ナスの炊いたん。
冷製だ。これまたしみじみとした味わい。賀茂ナスよりもこの種の煮物に向いているという山科ナス。出汁と豚の旨味がしみ込んで、何とも言えない。


続いて、かぼちゃとウニの茶巾寄席 生海苔ソースとオクラとろろ。
創作系は、なかなか凝っている。甘いかぼちゃを、食感もさまざまな食材が引き立てる構成。


これは、万願寺と鯛の酒盗あえ。
しゃきっと火通しして青い香りが立つ万願寺に、酒盗の塩気が良く合う。
鯛の質もまずまずで、酒が進む。


ついで、鮎笹巻飯蒸し うるか醤油。


上手に骨抜きされた鮎ともち米。これだけでも美味いのだが、うるか醤油がまた良い味出している。鮎となるとバカの一つ覚えのように蓼酢を出す店ばかりだが、このひと手間以上かけたうるか醤油は、これだけで完成した料理でもあり、酒が飲める。


ガラッと変わって、こちらは樋湯葉の唐揚げ ウニパウダー。
雨樋(とい)のようになった湯葉を揚げて、乾燥させたウニをまぶしたもの。
ちょっとジャンキーだが、やめられない止まらないになる。


定番の鴨ロース。
基本がしっかりしていることが、この一皿でよく分かる。
しっとりと、上手に味を含ませている。これで寿司にもするようだ。

他にもいろいろ食べたが、全部アップするとキリがないからこの辺で。

たっぷり食って、しこたま飲んだが、お会計はたまげるほど良心的。
店主、極めて腰が低く、親切この上ない。
こんな店が近所にあったら、と思わずにはいられない。

観光チックでバカ高い京都の店に行くくらいなら、断然ここをおススメする。
ただし、店の内装とかには期待しないことが条件だ。

深夜までやっているのもうれしい。
必ずや再訪しようと決めている。