これぞワインバーの鏡 ドゥエリーニュ 四谷三丁目 | 御食事手帖

御食事手帖

主に東京と湘南で食べ歩き、でも美食のためならどこへでも旅するブログ

ワインバーというのも、玉石混交、様々である。
暗がりの中で、とんでもない値段のグラスワインを押し売りするスノッブな店から、口が曲がりそうな安ワインをジャバジャバ注いでくる店まで、価格帯も質も幅が広い。

そこそこの料理を出す店は、たいていワインも高いものばかり。
トータルではすごい会計になってしまうことしばしばだ。
逆に、ワインの安い店は、料理の質も落ちる場合が多いような気がする。
よって、日本のワインバーというのは、コスパは決してよくないのではないだろうか。

気楽なカウンター席で、厳選されているけど高くはないワインを飲み、かつ美味いモノを食う――。大金持ちではない人にとっての理想的なワインバーというのは滅多にないが、私としては、四谷三丁目の「ドゥエリーニュ」は太鼓判の押せる店である。

まずオーナー料理人が、まじめで研究熱心。毎日、築地に行き、旬の食材を探求している。
謙虚な性格が価格にも反映され、値付けも控え目だ。

その料理は、フランスとイタリアの折衷で、パスタと炭火焼の肉が自慢だが、季節感あふれる前菜もレベルが高い。


例えばこの前菜。えぼ鯛と加賀太きゅうりのモモソースがけ。
寿司屋が幅を利かせる仕入れ先に食い込み、質の良いえぼ鯛を入手。塩で締めてから、皮目をバーナーで炙る。加賀太きゅうりは自家製マヨネーズ風のソースで絡める。ここに、果物の自然な甘みとヴィネガーの酸味が加わったモモのソースがプラスされ、白ワインを誘う爽やかな一皿に仕上げている。


同じく前菜カテゴリーから。この時期だけのアワビのロースト。
貝殻つきのまま真空調理して、うまみやエキスを逃さない手法。粉をはたいてバターで焼き上げたアワビは、噛むごとに持ち味がしみ出してくる。裏ごしした肝のソースからは磯の香がプンプンと立ち昇る。岩手産の大きなアワビは仕入れも決して安くないだろう。提供価格は1個丸々で6000円だが、店にとっては出血大サービスだと思われる。


今の季節のパスタでおススメは、ウニと茄子の冷製スパゲッティ―。
説明の必要もないだろう。鉄板のコンビネーションである「ウニなす」を、あまり手を掛けず、さりとて手を抜かずに仕込んでいる。温度にもよく気を配ってあり、これまたワインを持つ手がとまらなくなる。


ご自慢のメインは、この群馬県産・増田牛のカイノミ。
炭火でコロコロ、3~40分はかけて火を通す。
ピンクと紫が混じったエロティックな色の肉を口に頬張ると、じゅんわり肉汁が流れ出す。
程よいサシからくる甘さと、フレッシュながら深い肉香が、表面の香ばしさと混然となり何ともいえない。
グランヴァンが相手でも、全然負けない。
肉のグラスがベースのシンプルなソースもいい。


炭火焼きなんて・・・、という向きには、定番のメインとして増田牛の頬肉・赤ワイン煮込みのようなクラシックな料理もある。
柔らかすぎず、しかし筋張らない滑らかな頬肉が、ねっとりとゼラチンを残した口中。そこに一口ワインを含めば、味蕾もとろけ出さんばかりとなる。


この店、メディアの露出はほとんどない。
自主独立の店なので、グルメ出版業界人とのつながりもなく、彼らに便宜供与するような世慣れたところもないので、あまり見向きもされない。食べログの評価も低い(これはいいことだが)。
しかし、舌が確かな人で、ワインを愛する人なら、行って失望することはない。
アワビは別格の例外として、他の料理なら腹いっぱい食べたとしても1人5000円くらいで済むだろう。ちなみに写真はすべて1人前の半量だ。

まったくもって、ワインバーの鏡である。