「コート・ドール」の猪料理 | 御食事手帖

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主に東京と湘南で食べ歩き、でも美食のためならどこへでも旅するブログ

メニュー選びは難しい。
フランス人なんかは、平気で30分くらい、ああでもない、こうでもない、と料理を決めるまで時間をかける。
めったに外食をしない人が多いから、悔いのない選択をするため長考するのだろう。

それからすると、日本人はあっさりしている。
そもそも「お任せ」というのをありがたがる人が多い。
「おススメのものを」と店に委ねてしまうことは、私もよくある。

しかし、それでハズレた時は、何とも言えない後悔の念がわいてくる。

先日、「コート・ドール」でやってしまった。
何を食ってもハズレがない、とてんから信じ切っていた私は、勧められるまま猪のステーキというのを注文。これが口に合わなかった。

猪の醍醐味とは、豚同様、脂にあると思っている。
紀州の方で山の幸を専門とする「その筋の人」から教わった。
猪は3歳のメスにかぎる、と。
肉質と脂のノリがちょうどよくなる年頃なんだそうだ。

一時期、ちょいちょい猪肉を送ってくれた。
上手に仕留め、上手に捌かれたメスの肉は、脂が甘くナッティーで風味が豊か。煮てよし、焼いてよし、だ。

事前に聞けばよかったのだが、コート・ドールのは赤身のみ。ヒレステーキのようであった。
見事なバラ色で、肉汁も豊富。硬すぎず、柔らかすぎずの噛み心地も悪くなかった。

ただ、脂がないため、澄んで淡泊すぎる。獣らしい野性味に欠ける。
鍋なら八丁味噌でねじ伏せたくなるような、香りと臭いの瀬戸際のような「らしさ」が感じられなかった。
ペッパーのソースも、珍しく単調。
最後は食べ飽きてしまった。

脂を嫌う人なら、きっと別な感想を持つだろう。
しかし、冬が来るたびに、「あの猪のステーキが食べたい」というような欲求にかられる人がたくさんいる料理ではないとみる。
赤ピーマンのムースやシソのスープや牛のしっぽの赤ワイン煮のような、料理そのものにリピーターがつく一皿とは、明らかに違っていた。

お店のおススメには、大当たりもあれば、空振りもある。
つまるところ、最後は自己責任である。