




前にも書きましたが、トゥール・ダルジャンというのは、まだ日本人にとってブランド価値があるのでしょうか?
ホテル・ニューオータニの支店に、私は行ったことがありません。私の周囲でも、「いい店だ」という人は皆無です。
パリの本店に関しては、色々語る材料を持ち合わせていますが、ネタが古いのでやめておきます。
さて、神楽坂上のこのお店、ホームページでトゥール・ダルジャンでの修行を全面に押し出していますが、ご自慢の鴨料理よりもそれ以外の方が印象に残る料理でした。
ただ、コース料理のみで、結構高い。
それと、ムニュ・キャビアという、キャビアを中心としたコース(1万8千円+10%)があるのが、何とも鼻につきます。
敗北感に似た何かを感じながら、一番安いコースを(遠慮がちに)注文(苦笑)。

最初の前菜は「鰯のアマルフィの魚醤マリネ 茄子とトマトコンフィのタルティーヌ」。
アマルフィのしょっつる、流行っているようですね。香りと塩気のアクセントとして、この料理でも効いています。
サクサクの生地のバターの風味とトマトの酸味が、イワシを盛り立てていて、うまい構成。
「シェ・オリビエ」のイワシ料理より王道をいっていて、食いでがあります。

続いては、店のスペシャリテ「オマール海老のコンソメジュレとカリフラワーのヴルーテ
利尻産ウニとオマール海老 キャヴィア添え」
コンソメジュレとウニ、オマールを組み合わせた料理は、多くの店がスペシャリテにしていますので、よほど出色の一皿がないと埋没してしまうように思います。
ここのは、カリフラワーのブルーテがサラサラでゆるい。半熟卵が輪をかけて味をマイルドにします。コンソメには明確な主張がありましたが、やや冷たすぎる温度の影響もあり、味がぼんやりしています。日本人好みの料理で華がありますが、食べた印象はサラッと流れます。

3皿目は「スミイカとサマートリュフのオイルマリネとスライスサラダ 北海道産のグリーンアスパラガスとイベリコ豚の一皿」。
生しいスミイカの質がとてもよく、ゲソなんかは歯ごたえがあって甘い。
そんなイカに、細かく刻んだ生ハムがまぶされて、塩味とコクのアクセントとなっています。
サクサクで青い風味たっぷりのアスパラとも相性も悪くありません。
フレンチでは珍しく、おいしいイカ料理でした。

4皿目は「温かいフォアグラとウズラの卓上スモーク エシャロットコンフィ、カシスマスタードソース」。
ここでフォアグラ料理とは、なかなかしっかり食わせてくれるコースです。
卓上スモークという演出も、嗅覚を刺激されて食欲が絞り出されます。
とろりとしたエシャロットとうずら、フォアグラを一緒に頬張ると、植物性の甘味と動物性の甘味が共振して、とても良い味わい。カシスマスタードは「マイユですか?」と突っ込みたくなりましたが、カシスの果実味は意味のあるアクセントになっていました。

メインはご自慢の鴨。「フランス産マダムビュルゴー鴨のロースト そのプレスジュを使ったソース」。
私は、このマダムビュルゴーの鴨というのに、極めて懐疑的です。
ブランド大好き日本人を狙った虚構のイメージのように思えてなりません。
エトフェしようが何しようが、高い値段を取るに値するほど、大した違いやずば抜けた良さは感じません。
この料理も、ジュとバジルの2種のソースは良くできていましたが、鴨自体の質には特筆するようなものはありません。
コース全体としてみると、量も充実、税込11350円+10%の値段に見合っています。
高級感もあり、ハレの日の食事にはぴったりでしょう。
ただ、ここのワインリストもいかがなものか。
ブルゴーニュとボルドーがほとんどで、あまりに高級ワインに偏りすぎ。
フランスの三ツ星レストランだって、もう少し、フレンドリーな価格のワインをそろえて、逃げ場を作っています。
お店のブランディングなのかもしれませんが、しかし結果としてフレンチへの間口を狭め、客を遠ざけてしまうことになりはしないのか。
東京で、「これはいいな」というワインリストを持つ店は、本当に少ないですね。