極上のブレス鶏 | 御食事手帖

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主に東京と湘南で食べ歩き、でも美食のためならどこへでも旅するブログ

子どもの頃から、鶏が大好きです。
祖母が住んでいた大分の肉屋で売っていた「かしわの唐揚げ」というのに目がなくて、夏休みや冬休みに訪ねた折には、夜ごとそれを頬張っていたのを、今も思い出します。

多くの人にとって、鶏はなじみの深い食材でしょう。
宗教上の問題も少なく、所得が低くても口にできる肉。
庶民的ではありますが、しかしこれほどピンキリな食材も、あまり他にはないように思います。

最近食べた、ピンの中のピン。
それが、これです。

三田のフレンチ「コートドール」のブレス鶏のロースト、シェリービネガー風味のソース。

いや、もう、驚きました。
この店はおいしい、なんて言っても、いまさら過ぎる話でしょう。
また、こういう店を褒めることで「自分はグルメなのだ」と自己主張したいわけでもありません。

ただ単に、食べて驚いただけです。

均質にきれいに焼かれた皮目。どこをかじっても、ムラがありません。
ナイフを入れた時の、クリスピーな手ごたえ。
その感触が、唾液を誘発します。

口に入れると、とびきりの弾力。
極上の比内地鶏もかくや、という噛みごこちです。
肉汁のしみ出し方も、申し分なし。だらしなく水気が多いのとも違う、適度なジューシー感です。

写真ではクリームのソースが子どもっぽく見えますが、味わいは全然違います。
ヴィネガーの酸が、必要にして十分なテンションを生んでいて、ゆるんだところがありません。

手羽先もモモも、適切な火通し。
部位をばらして個別に焼いているのかと思いきや、そうではないとのこと。
見事なものです。

ブレスの鶏は、結構食べてきたつもりです。
フランスでは肉屋で普通に売られている鶏。散々、焼いたり煮たりしてきましたから、いまさら驚くことはありません。
産地にも、何度も出向きました。

ボナスの三ツ星「ジョルジュ・ブラン」が96年から名物料理にしている「ブレス鶏のG7風」。
ソースにはフォアグラが溶かし込まれています。
デビュー当時は、めちゃくちゃに濃かったのですが、その後、マイルド化してきました。
悪くはないのですが、皮の美味さと飽きのこないソースの2点で、コートドールが上です。


こちらはリヨンの2つ星「「La Mère Brazier」のブレス鶏料理。
皮と身の間にトリュフを入れて、ココットで蒸し焼きにしたもの。これもクリームのソースでした。
おばあちゃんのレシピですから、フランス人は郷愁を誘われるのでしょうね。

同じく、皮下トリュフの鶏だと、モナコからパリ16区に移ったばかりの頃のアラン・デュカスで、豚の膀胱に包んで調理したものが印象に残っています。
いずれも、胸肉をしっとりさせることに主眼が置かれた調理であり、ローストのストレートな美味さとは一線を画します。

いろいろだらだら書きましたが、それにつけてもプレ・ロティは、本当にピンからキリですね。
自宅のオーブンで四苦八苦して焼いたのから、肉屋やマルシェでクルクル回っているもの、そして熟練の料理人の手によるものまで、値段も味もいろいろです。
あらためてピンの方を食べてみて、鶏も奥が深いなあ、と勉強不足を恥じ入ったしだいです。