この潮流を鮮明にさせたのが、スペインの「エルブジ」ですね。
奇妙奇天烈な科学的料理で一世を風靡しましたが、今は休業中。
話題の中心は英国や北欧などへ移っていきました。
しかし、「エルブジ」がお休み中とはいっても、美食の国としてのスペインの地位は揺らぎません。
バルセロナ周辺やバスクでは、今も素晴らしい料理人たちが活躍しています。
ところが、首都のマドリードとなると、とんと良い話は聞きません。
ミシュラン・スペイン版を見ると、数件の2つ星はあるものの、それらが世界的な評判になることは皆無でしょう。
お世辞にも美食の先進地とは言えません。
郷土料理も無骨なものが多く、それも肉、肉、肉のオンパレード。
この地で食を楽しむには、それなりの覚悟と胃袋が要求されます。

レストランでちょいとビールでも頼もうものなら、おつまみはこんな感じ。
脂のしたたるチョリソなんかが、頼まなくても出てきます。

「前菜は軽めにスープを」、なんて弱気なことを考えても、逃がしてはくれません。
このカスティーリャ風のスープは、にんにくたっぷり。生ハムの出汁がめちゃくちゃ効いていてコクと深みがあります。
上はパンとたっぷりのチーズ。オニグラスープと同じ構造ですが、パンチ力が違います。

仔羊のローストを勧められたので頼んでみると、前脚(エポール)が一本丸々出てきます。
油断も隙もありません。
乳呑みサイズとはいえ、量はかなりなもの。
野獣になったつもりで、ボリボリ食うしかありません。

牛テールの料理も名物らしく、リオハ煮込みを頼んでみたら、これまたすごい量。
尾っぽが3節ありました・・・。
食っても食っても減りません。

わりと量が人間的だったのが、マドリードで食べた子豚の丸焼き。
皮目がパリパリに香ばしく焼けていて、皮下の脂はしっとりねっとり。
骨周りの肉もジューシーで、意外なほどにおいしい。
「ボティン」なる観光レストランは行ってませんが、地元民が行くようなレストランだとハズレはなさそうです。

これも有名な郷土料理「カジョス」。牛モツ煮込みですね。
とにかく煮汁が濃厚で、唇がテラテラ・つやつやしてきます。
モツから出るコラーゲンが、ぎっしり。
うまいけど、量が多いと飽きますね。

このようなパワフルな料理に合わせるには、同じくマッチョ系のワインしかありません。
「テレウス」の2010年。まだ若すぎで、タンニンがぎっちぎち。
でも、スペイン人にはワインを古くするという発想はありません。
「瓶に入っているワインは、どれでも今飲んで美味いのだ」と言い張ります。

冗談みたいなデキャンタに移し替え。
誰でもできる「神の雫」風デキャンタージュです。

食卓に置かれると、まさに漫画の世界。
周囲から注目されて、非常に恥ずかしい状況でした。
それにしても「テレウス」、少々空気に触れさせたところでビクともしない頑強さでした。
ぜひ、20年後に飲んでみたいものです。
肉また肉の郷土料理ですが、素朴で一本気な味わいは全く悪くありませんでした。
が、毎日となると、結構つらいかもしれませんね。
バルや現代料理と織り交ぜて楽しむと良いでしょう。