




三田と言っても、駅ははるかかなた。
おそらく、麻布十番から歩いた方が早いでしょう。
この店自体は、以前、さえないイタリアンがあった跡地。
ご近所には「菱沼」があったことを思い出す、辺鄙な立地です。
なのに、連日満員の大人気ですから、実力のほどがうかがえます。
店主は30代でしょうか。人当りも良く、謙虚なので、大変好感が持てます。
そんな人柄が随所に表れた料理。初訪問でしたが、かなり恐れ入りました。

まず初手に、春菊といくら、とんぶりの和え物。
よくある食材の組み合わせですが、味のバランスがとても良くて驚きました。
いくらととんぶりの食感も楽しい。

お椀は、郡上八幡の鮎と冬瓜。
ご自慢の鮎は、上手に骨抜きして香ばしく焼き上げています。が、そんなに心打たれるような鮎ではない。最上質の鮎なら、このような椀だねにはしないでしょうしね。
吸い地は、とてもふくよかで雄弁。ですが、味がしすぎです。
もっと削り落として、シャープに焦点を定めてほしいところ。
おいしいけど、うまくない出汁です。

造りは、目いち鯛。
産地では飛び切りの白身として知られていますが、東京というか築地でも手に入るんですね。
足がはやい魚ですが、どうにか良い歯ごたえで出しています。
あしらいやもみじおろしを使わず、塩だけで食べるのがベストでした。

驚きの鮑料理。ちんちんに熱した器に、鮑と肝ソースを投入し、一気にグラグラさせます。
柔らかい鮑をふーふーいいながら食べた後・・・。

鮑の煮汁で炊いたご飯と北海道産のムラサキウニを・・・。

残った肝ソースの中へ投入!
余熱でご飯が石焼ビビンバ的になったところを頬張ると、得も言われぬ味わいです。
鮑の出汁、肝、ウニが渾然一体となるわけですから、不味いはずがありません。
エンターテイメント性もあって、かつうまい。お見事です。

焼き物は、グジの玉ねぎソース。
炭火でこんがり焼かれたアマダイはなかなかですが、それよりも上のしいたけがオツ。
白い粉状のものは、玉ねぎのフリーズドライ。甘みと旨味が凝縮されて、とてもいいアクセントです。ちょっとエルブジ?研究熱心なご主人のようです。

こちらはジャガイモの千切りと飛び子を和えたもの。
一見、ごく普通ですが、食べると味が良く計算されているのが分かります。

炊き合わせも抜群。アナゴと茄子です。
餡がまた濃い味で、関西というよりは江戸の料理のようです。
東京人の舌に合わせて塩分をチューニングされているのでしょうか。
とろりと煮上げたアナゴは、大変良質。冷酒がくいくいいけます。

締めは、鱧のご飯。
大葉、山椒などが程よくきいて、とても香り高いご飯です。
最後まで惜しげもなく食材を投入されて、気前の良さを感じます。

水菓子まで手抜きなし。さすがなもんです。
お椀以外は手放しで褒めてしまいました。
良い良いとは聞いていましたが、予想を超えて満足しました。
三田というマイナーな立地でなければ、予約を入れる隙間もなかったでしょう。
間違っても銀座などへ進出されませんことを、心から祈っています。