フレンチにおける「モダン」と「クラシック」の違いはなんぞや。
そう問われても、うまく答えられる自信がありません。
「レ・セゾン」夏のランチコースを食べて、改めてそんなことを思い起こしました。
仏人シェフ、ティエリー・ヴォアザン氏の料理は、初めの頃、「フランスと時差が無い新しさ」を感じました。
しかし、今は違います。
非常にオーセンティック。
これを指して、クラシックと言って良いかどうか悩むところですが、少なくともフレンチの王道を歩んでいるのは間違いありません。
例えば、前菜の「ブレス産ヴォライユのテリーヌ」。
レバーもしっかり練り込まれ、とても濃厚なテリーヌです。
真夏に食べるには、ちょっと重いくらい。
トリュフオイルのビネグレットも、爽やかとは言い難い濃度があります。
軽さを追求する昨今の傾向から外れた、骨太の料理です。
魚料理は「強火で焼いたルジェ ロケットのクーリとレモンのピュレ」。
これも、奇をてらったところがない、プロバンサルな正統。
皮目がパリパリのヒメジに、刻んだドライトマトの甘みとレモンの酸味が効いたピュレが、実に良く合います。
しかし、食材的にみれば、ごくごく当たり前の組み合わせ。
それを堂々と出してくるあたり、シェフの「クラシック回帰」と考えて良いのでしょうかね。
肉料理は「ブレゼした仔牛バラ肉のファルシ」を選択。
ネットでは、「ブイヨンで煮た仔牛が柔らか~い」とかなんとか書かれていましたが、私はそうは思いません。
むしろ、しっかり歯ごたえを残す煮方で、中のファルスの柔らかさと、食感のコントラストを出しているところが絶妙。
クリームのソースはさらりとしていますが、考え方の大元はブランケットでしょうか。
仔牛料理の伝統の枠を重んじているように、私は思いました。
来日シェフの多くは、「斬新さ」を期待される中で、結果を出すことに焦るケースが多いでしょう。
ヴォアザン氏はそうしたプレッシャーからすでに脱し、自分の思いのままに、目指す料理を追及しているのではないか――。
オーセンティックへの傾倒を強める姿勢に、そんな推測が思い浮かんだしだいです。
フランス人シェフによるモダンとクラシックが融合した料理を、日本にいながらにして体験できる、貴重な1軒ではないでしょうか。