べにやのご主人によるあいさつ状の一節です。
魯山人などの書画を飾りたてて、「持っている宿」をアピールする「あらや」。
これとは真逆に、「何も無いこと」を謳う「べにや」。
あまりに対照的な2軒は、料理にも個性の違いがにじんでいます。
べにやは、例によって無機質なダイニングでの食事。
テーブルも椅子も安っぽいですが、皿だしのタイミングや温度管理はきちんとできていて、文句はありません。

先付は、巻エビやずいき、おかひじきが入った白和え。
程よい甘みが食欲を刺激します。入りの料理としては、なかなか上品にまとめています。
器も素敵で、当たり前のように須田青華を出してきます。

前肴に、鮑のやわらか煮。客のテンションがあがる一品です。
白アスパラが意外な取り合わせ。鮑が放つ磯の香と、アスパラの土の香がコントラストを織りなしています。

お椀は蓮根餅の沢煮椀。
揚げたゴボウが良いアクセント。それに人参、白ネギ、ミョウガ、独活(うど)、芹などが入っていて、甘みから苦みまで、複雑な味わいをつけています。非常においしい。

向付は、ヒラメの巻き造りと赤イカのそうめん。
夏のヒラメですから、そんなに旨味が乗っていません。
イカそうめんも前回と同じ趣向なので、ちょっと退屈。

ここで、なぜか寿司登場。マグロとアナゴ。
どちらもネタは悪くないのですが、ここで食べなくてもよさそうなものです。

焼き物は、岐阜県・庄川峡の若鮎。
このサイズ、大好きです。骨あたりが柔らかく、肝の苦みもちょうどよい。
焼き方もうまいもんでした。久々に美味い鮎にあたりました。

たで酢の器も結構。

煮ものは、岩だこと野菜の炊き合わせ。
野菜が凝っています。
へた紫茄子、かもうり、赤皮南京、千石豆。
地産地消でしょうか。主張のある野菜たちでした。

強肴は能登牛いちぼ焼、実山椒ソース。
肉はごく普通ですが、器はやっぱりいいですね。

締めは、枝豆ごはん。香りが素晴らしい。
器は庶民的、美陶園のものです。

オプションで頼んだ自家製からすみ。
これで1600円はいかがなものでしょうか。
10種類ほどの追加料理がありますが、いずれも割高なようです。
料理のレベルは相変わらず平均以上。
宿の料金に見合っています。
好みの差もあるでしょうが、私はあらやよりべにや派です。