天ぷらにエビがなくてもいい | 御食事手帖

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寿司屋の華はマグロ。
天ぷら屋の華はエビ。

これがなければ、営業が成り立たない。
いずこの店も、通年欠かさず仕入れるタネの代表でしょう。

しかし、です。

マグロもエビも魚介類。
当たり前ですが、旬があります。
ところが、日本人はやたらと旬を尊んでいるふりをするくせに、車エビに関しては全く無頓着、ではないでしょうか。
年がら年中、寿司屋でも天ぷら屋でもエビが食えないと、気が済まない御仁は多いようです。

車エビの旬は、ちょっと分かりにくい。諸説あるようです。
が、専門家や寿司職人などの意見で共通するのは、「夏場は一番味が落ちる」という点です。
5月以降は産卵期でガタ落ち。気温と水温が高い盛夏の頃は、活けの車エビも扱いが難しいそうで。
せっかく仕入れても、客に出す前にバタバタと死んでしまい、店のロスも馬鹿になりません。

不味くて、活きが悪く、死蝦が出やすい。

ならいっそ、夏は出さなきゃ良いではないか。

この、極めて合理的な考え方を実践することになったのが、曙橋の天ぷら屋「荘司」さんです。
味の落ちたタネを出さないのは、客のため。
死蝦で損した分を料金に転嫁しないのも、客のため。

なんと思いやりのある英断でしょう。

「なんだこの店は、天ぷら屋の分際でエビがないのか」
暑い時期は、こんな野暮なことを言ってはいけません。
「夏はエビなし」が通、ということです。

車エビがなくとも、良いタネはいろいろあります。
殻の歯あたりが柔らかい桜えびのかき揚げ。
独特の揚げ方をするキス。
アナゴも夏が盛りです。

荘司さんでは、ご主人のご実家である秋田から、うまい夏野菜も到来します。

業界でもおそらく珍しい試み、エビなし天ぷらに私は「いいね!」します。