およそ9年ぶり、2度目です。
東京は世界中の美食が集積する「食都」であり、本場へ行かなくても、何でも最高の料理が食べられる。
頭からそう信じている人は、結構多いですね。
はたして、事実でしょうか。
一流の料理は、富に引き寄せられるもの。
カネが集まるところに、美食も集まるのです。
日本のバブル期、一流の中華料理人たちが東京に居並んでいたと聞きます。
今はどうでしょう?富が生む求心力は、日本を離れ、中国に移ってしまったと指摘する人は少なくありません。
4年前、スペイン・バスクの三ツ星レストラン「マルティン・ベラサテギ」で言われました。
「東京への出店は考えていない。出すなら上海だ」。
落日の食都・東京、と悲観するばかりではありませんが、たまには「本場」で舌のチューニングをしたいもの。香港の今を味見してみました。
まず手始めに、ミシュラン香港版で広東料理唯一の三ツ星を獲得している「龍景軒」で飲茶。
香港島のフォーシーズンズホテル内のレストラン。
エントランスなどは洒落こけていますが、メインダイニングはこんな感じ。

高級感に圧倒されるというわけではありません。景色が楽しめる窓側が、内装よりもウリでしょうか。

初手はご自慢の点心、「龍太子蒸餃」。
ロブスターとホタテのシュウマイです。これ一つで43香港ドルなり。
あっさりしていながら、海老・貝のエキスに満ちていて、素材の味にごまかしがありません。
テーブルには黒酢や各種の醤が並んでいますが、何かを付けるのはもったいないくらい、味の均整がとれています。

これも、ここの名物ですね。
刻んだ鶏入りのあわび丸ごとパイ。
バターの効いたパイが、まずおいしい。あわびを煮たツメが濃厚で、パイの風味に負けていません。ただ、あわびそのものは、サイズがサイズですから、極上というわけでは全然ありません。

こちらは、サックリング・ピッグ。
豚皮のカリカリ焼きです。上手に焼いているもんです。
皮の下には、しっとりとした身が敷いてあります。自家製の甘ダレが、また大変良い味。

こちらは変り種。アボカドとオニオン入りホタテのパイ。
もはや、ヌーベル・シノワというより、フレンチの世界です。

こちらは割と正調。カニ子をのせた海老と豚のシュウマイ。

蝦餃、ハーガウも、ここのは緑のアスパラガスを小さく刻んで入れてあって、一工夫されています。皮が絶妙の厚さで、口の中でムチムチとした後、とろけて消えていきます。
工場製のハーガウとは、別世界です。

野生のキノコとナッツが入った鶏肉餃子。鳥インフルなど、怖がっている場合ではありません。

エビと中国セロリが入った春巻き。
おいしいけど、驚きはありません。

最後はデザート。カスタードのパイ。
見た目は平凡ながら、味は洗練されています。
香港に付いてすぐの食事で、ずいぶんと食ってしまいました。
これが今、最先端の点心なんだ、と感心ひとしきり。
晩飯までに腹は減るのだろうか、と心配になる一軒でした。