目黒の「キャス クルート」のメニューによれば、山シギ、ベキャスとのこと。
私は違うと思います。
真の王者は野うさぎ。
本国フランスでは、野うさぎ料理のコンクールはあれど、ベキャスでは聞いたことがありません。
「Lièvre à la royale」
フランス料理の本物のシェフなら、誰もが思う存分、腕をふるってみたい料理でしょう。
そして、多くの人が、何度作ってみても理想の味にならず、悲嘆にくれる料理でもあります。
世界の食都などともてはやされる東京ですが、野うさぎのロワイヤルを出す店というのは、さすがにそう多くないようですね(家禽に含まれる飼いうさぎ:ラパンとは別です、念のため)。
良い材料が手に入りにくいから?
それとも、料理人が怠慢だから?
いやいや、食べ手の側が未熟で、野うさぎの良さを理解できないから?
色々事情があるのでしょう。
その中でも一番は、作るのに手間暇とコストがかかり過ぎるからでしょうか。
今年最初で、おそらく最後となるリエーブルを、乃木坂の「FEU」で食べました。

野うさぎ一羽に対して、赤ワイン、なんと20数本も使ったのだとか。
普通は、うさぎの血だけでは足りず、豚の血を足してコクを補充するそうです。
が、この日の野うさぎは弾の当たり所が良かったらしく、自らの血だけで足りたのだとか。
豚の輸血なしの純血品というわけです。
シェフいわく、自身最高傑作とのこと。
なるほど、素晴らしい香りです。
トリュフの方は、あくまで伴奏者。主役は、野うさぎ本来の獣香です。
一糸まとわぬ男女のしとねに、ふっと漂う香りを彷彿とさせます。
こういうと、単なる変態のように思われるでしょう。別に結構。
ジビエを食す喜びとは、脳内における食欲と官能の混濁を感じることだと私は思います。その意味において、上手に作られた野うさぎは、王者と呼ぶにふさわしい料理でしょう。
合わせたワインは、当然、カリフォルニア。
ブランキエ・エステートのカベルネソーヴィニヨン2004。
どんなワインか、参考までにURLを張っておきましょう(私は米西海岸のネットオークションで安く落としました)。
http://item.rakuten.co.jp/wine-takamura/1079267/#1079267
若いかな、と心配しましたが、飲んでびっくり。
タンニンがこなれていて、なめらかな飲み口。赤や黒の果実の香りに、なめし皮的なニュアンスが混じり、こんこんと湧いてきます。
厚化粧なところがなく、酸や渋みがしなやか。かなり上等のボルドーでないと、太刀打ちできないでしょう。
野うさぎには、絶好のお相手でした。
ワイン本人にとって、成仏するにふさわしい料理。
年に一度は、これくらい出来の良いリエーブルを食いたいものです。