




オープン1年が過ぎたようですが、メディアで持て囃されたり、食べログの点数が急上昇したりしない状況が続いています。
フレンチとイタリアンが混ざった両生類のような店ですから、雑誌の特集とかでも取り上げにくいのでしょうか。それとも、イマイチ何語か分からない店名に問題があるのか・・・。
しかし、世の反応がどうであれ、私には何度行っても満足度が減退しないお店です。
銀座あたりのビストロへ行くと、ちんけな料理にもかかわらず平気で1人1万円くらいむしり取るご時世です。しかし、ここはそんな暴利を貪ったりはしません。相変わらず、うまくて安いです。

この日の前菜は、まずボタン海老と蕪のタルタル。
緑のソースは、蕪の葉を使ったものです。
蕪本来の苦み走った香りが、ボタン海老の甘みとマッチしていて、色味も実にきれい。
中には、刻んだ蕪とムースも入っていて、凝った造りになっています。

こちらは、ギリシャ風の野菜マリネ。
歯ごたえと風味を失わない程度にエチュベされ、酸味も柔らか。
シェフは、コート・ドールの斎須さんリスペクトのようですが、味の狙いは別とのこと。
あちらのは、酸味がキリッとしている分、ワインは難しくなりますが、ここのは白が欲しくなります。それと、値段も全く別次元です。

これは、手打ちトロフィエと冬野菜のジェノベーゼ。
参りました。
トロフィエがむちむちでたまりません。日本でこんなのが食えるのは、うれしいかぎり。
野菜も良く考えて使っています。鎌倉あたりのイタリアンでは、良くある取り合わせではありますが。
写真は半人前の量ですが、できれば大盛りを食べたいものです。

定番料理、ゴルゴンゾーラのグラタン・ドーフィノア。
オーブンから出てきた瞬間の、鼻につんとくる青カビ・スメルがいいですね。
寒い冬に、熱々のじゃがいもをかき込む幸せを噛みしめられるなら、口や食道がヤケドするくらい、どうってことはありません。

メインは、豚ロースの炭火焼。
これは、注文直後に巨大な骨付き肉塊から切り出し、炭火の上にのせて、ゆっくりじっくり丹念に焼き上げてくれます。
40~50分、いやそれ以上かもしれません。今度、計ってみます。
温度の強弱がある網の上で、横になったり、縦になったり、転んだり、起きてみたりを繰り返して、こんなバラ色になりました。
この脂身がまたうまいのなんの。イベリコもマンガリッツァもおいしいけど、国産の熟成肉も捨てたもんじゃありません。

合わせたワインは、こちら。98年のものです。
ベタな有名ブランドですみません。
しかし、私にとってはブルゴーニュを知る入口となってくれたジャドですから、時々無性に飲みたくなります。
カリフォルニアのピノばかり飲んでいると、自分なりの物差しにも狂いが生じます。たまにはジャドのような定番で目盛りの補正が必要です。
98はもっと軽いかと思っていましたが、意外にタンニンがしっかり。
香りの広がりやコクの点で欠けたところがありますが、後半になるとジャドらしさとアペラシオンの持ち味が表現されてきました。
ここのカイノミと合わせるには荷が重いでしょうが、豚とはまずまずの相性でした。
これだけの料理を食べても、財布に優しいお勘定です。
多くの常連さんにとっては、人に教えたくない店なのだろうと推察します。
私も、影響力の低いこのブログで紹介するにとどめておこうと思います。