アラジン 広尾 | 御食事手帖

御食事手帖

主に東京と湘南で食べ歩き、でも美食のためならどこへでも旅するブログ

いつ訪問しても、ブレのない料理が出てくる安心感。「もはや過去の店」と捨て去る向きもあるようですが、単に食べ手の側の民度が低いだけでしょう。おかげで予約は取りやすく、料金はいよいよリーズナブルになりましたから、民度の低下はむしろ大歓迎です(笑)。
★★★★☆


初めて気が付きました。
この店の食べログでのコピーは「ジビエ料理にこだわる『老舗フレンチ』」だったんですね。
京都では、創業100年程度では老舗と言えないと聞きます。
何も自ら好んで「老」と言う字を使わなくてもよいのではないでしょうか、川崎シェフ。

なにせ料理の方は全然老けこんでいません。
この日は、ジビエ2段構えのコースを注文しましたが、最後まで元気はつらつでした。

初手は、ポルチーニのソテー、ぎんなんオリーブオイルソース。
シンプルなソテーに、細かく刻んだぎんなんのソースの黄緑が鮮やか。独特の苦みが茸に合います。

続いて、秋冬のご自慢料理、毛蟹のロワイヤル。
蟹ミソのソースをたっぷりかけた毛蟹の身の下には、汁気たっぷりのフラン。
スプーンでザックザックと混ぜ、フーフーいいながら食べます。
蟹の旨みが鼻と口に充満する感じがたまりません。

さらに前菜、「フォアグラと海老芋のロースト、マデラソース」はなかなかの力作。
この組み合わせを、「和食の若手がよくやるパターン」と思ったあなたは半可通です。
フランスでは、トッピナンブール(キク芋)という似たような芋をフォアグラと合わせる料理があります。パリの「Caree des Feuillants」で、かれこれ10年以上も前に食べました。
つまり里芋系のイモにフォアグラを合わせる料理は、本場ではごく当たり前ということです。
海老芋を使ったこの店のバージョンでも相性はばっちりで、クラシックなマデラソースも悪くありません。


魚料理は、あいなめ。モンサンミッシェルのムールと野菜のミルポアをソースにして、載せていました。あいなめは、トロッとした皮までおいしい。


続いて、メインその1は、蝦夷仔鹿の背肉のステーキ。
松の実とトロンペット茸を刻んだソースが、秋の森を想像させる味わいで、とても季節感に富んでいます。「過去の店」呼ばわりするなど、とんでもない話でしょう。
添えられた脂身も野趣あふれる香り。付け合わせのセロリアックのピュレまで、丁寧に造ってあります。

メインその2は、山鳩のロースト。
内臓とポワブラードソースです。古臭いソース?いえいえ、正しいのです。
もうもうたるジビエ香が立ち込める食卓。
冬のフレンチの醍醐味、これに極まれり、です。

これらの料理にデザート2品、「柿のパッションフルーツ風味」と「栗入りフォンダンショコラ、栗の花の蜂蜜のアイス」がついて、1万円を少々超える程度の料金。
お値打ちという以外の表現を、私は知りません。

はやりの新店ばかりを追っかける「食べログ」族はお呼びではありません。
ただ、経営難に陥っては困るので、違いの分かる人はぜひ試してみてほしい一軒です。