




「温泉街に美味いもんなし」。
ほぼ間違いのないところでしょう。
「るるぶ」あたりで褒めそやしている店へいって、美味かったためしはありません。
観光地で客商売する大半の人の辞書に、「経営努力」という文字はないのでしょう。
何もしなくても、客の方からやってきてカネを落とすのですから、汗をかくのがアホらしくなるのも無理はなし。
しかし、栄枯盛衰は世の常。
不況になれば、努力なき者を待つのは自然淘汰です。
さて、過酷な淘汰がすすむ山代温泉にあって、何軒か気を吐く存在があります。
「べにや」「あらや」の両旅館、九谷焼の須田青華などは、その筆頭格でしょう。
美味いものがないはずの飲食店でいうと、この亀寿司が「掃き溜めに鶴」的な存在です。

町屋風の構えからして、やる気満々な雰囲気でしょう。40代前半の夫婦が切り盛りする佳店です。

まずはおすすめの香箱蟹。
「あれ、石川はまだ解禁前では?」と思ったあなたは蟹通です。
これは新潟産。地元の方たちはメス蟹が好きですね。
器は美陶園のもの。ご主人が注文して作らせたそうです。

8キロのブリと4キロのスズキ。近くの橋立港より。
スズキがびっくりするほど美味い。臭みのない脂ののりが非常に良い具合。
ブリの腹身は、真冬の10キロ超級と比べると「8合目」くらいの味わいです。
身の張りは申し分なく、歯当たりも大変心地よい。

タラの白子も、これからがシーズンですね。
さっと湯がいて半生のところを、口の中でブチュブチュいわせながら喰らいます。
産地で食べる鮮度がいい白子は最高であります。

あおりイカのウニ合え。
採れたてのイカは噛むほどにねっとりと甘く、そこへウニの甘みが加わるのですから、もう大変。舌の上は旨みだらけです。

イカウニと一緒に、持ち込みのシャンパーニュをゴクリとやりました。
ピエール・カロのブラン・ド・ブラン。これもドサージュ(補糖)少なめながら、まろ味のあるシャルドネで、魚介に合います。「カンテサンス」のグラスシャンパンで飲んで気に入りました。

日本海へきたら、やっぱりのどぐろですね。
パリッとジュワっと、ムツらしい豊かな汁気を楽しみながらムシャムシャ食います。

当たり前ですが、ここも九谷にこだわっています。

橋立港の鯵。身のいかり具合もちょうど良く、青魚の風味がきれい。

アオリイカのげそ。あごの筋トレになるくらいの噛みごたえ。ザックザックと歯で押しつぶすたびに、プンプンとイカの香りが鼻に抜けていきます。
これはたまりません。

丸々太った甘エビ。今が旬で、サイズが大きいです。
ベチョっとせず、かすかにサクっとした食感。これぞ甘エビという活きの良さでした。

ブリの腹身を、握りでもう一度。
シャリと一緒だと、脂の味わいがさらに引き立ちます。
その他もろもろ、腹いっぱい食いましたが、いつぞやの太平寿司の半額ほどです。
温泉街なのに旨くて安い。立派です。
石川の寿司種は、これからが本番。
冬にもう一度食いに行きたいものです。