ドゥエリーニュ 四谷三丁目 | 御食事手帖

御食事手帖

主に東京と湘南で食べ歩き、でも美食のためならどこへでも旅するブログ

お世辞抜きに、安くて旨い店。予約が取りにくくなると困るので、このまま「食べログ」での低評価が続くことを祈るばかりです。前菜、パスタは一工夫のある料理があれこれありますが、真骨頂はシンプルな炭火焼。こだわりの牛肉、カイノミは一食の価値があります。
★★★★☆



四谷三丁目交差点から歩いてすぐとはいえ、地味な店構えと殺風景な内装は、とても上等な料理を出す店と思えません。
男も女もそうですが、飲食店というのも見かけによらないものです。

お店を切り盛りする男子2人も、どこにでもいそうな若者です。
特に料理人の方は、どちらかというと茫洋とした印象。手つきもプロっぽくないし、しゃべりももったりしています。

が、しかし。

2度目の訪問でいよいよ確信が深まってきました。
ここの料理は、実に割安です。
目や耳から入ってくる雑多な情報を全部シャットアウトして、皿の中にだけ集中すると、ちゃんとした料理であることが良く分かります。
旨いし、良い材料を使っているし、ポーションもたっぷりなのに、料金はそれほど取られません。
高級フレンチではないけど、俺のフレンチでもない。何度でも食べたくなる、仏伊チャンポン料理なのです。

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前菜は、カマスのカルパッチョ。
夏前に大カマスと称して出す店がありますが、あれは旬外れでしょう。カマスは今、秋にうまい魚です。
厚みのあるやつの皮目をバーナーでさっと炙り、大き目に切ってきゅうりに乗せます。
緑のソースは、ライムの皮を使ったもの。上のピンク色は、みょうがのソースです。
共に個性的な香りのソースですが、ぶつかることなく調和しています。特にライムのソースが爽快でワインを誘います。

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2皿目は、ポルチーニのブルーテ。ポワレしたフォアグラとセップを浮かべています。
きのこのブルーテの場合、もっと繊維を残して噛みごたえのある状態にとどめたものが多いですが、ここのは完全にプロセッサーでなめらかにしています。
セップの香りをあますところなく皿に盛り込んだ料理。アクセントのフォアグラは、質も焼き方もなかなか。
ブルゴーニュの良い白ワインとやりたいところでした。


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3皿目は、フランコイタロの良さが出た料理。
ブーダン・ノワールのラザニアです。これがめっぽううまい。
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湯気とともに立ち込める血の香気がたまりません。
濃厚なベシャメルと相乗効果を醸しだします。
サルシッチャのようなひき肉が入っていましたが、そんなものよりもっとブーダンの量を増やすべきでしょう。
フランスでもイタリアでも食べたことのない創作ラザニア。
末長くメニューに載せておいて欲しい料理です。


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メインは、カイノミの炭火焼。
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見事な色あいでしょう。
長い時間をかけて、ゆっくり丁寧に焼いてくれます。
シェフは、牛の生産者を訪ねるほどのこだわりようで、使う肉も今はカイノミ一本に絞っているのだとか。
バラ色に焼かれた肉は、噛むと肉本来のエキスと風味がジュワっと広がります。
繊維の感じが実にいい。
門崎牛などのイチボなんかよりも豊潤で、A5和牛サーロインよりも軽やかでシンプル。
今の自分には、ピタッとくる肉です。
よくぞこのような店で、ここまでの炭火焼きを出すものだ、と感心ひとしきり。
カイノミ以外では、豚肩ロースがレギュラーで、この日は蝦夷鹿もありました。

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ワインの持ち込みは1本3000円。結構取られます。
しかし、今後の訪問で炭火焼き肉とどんな赤を合わせるか、あれこれ思いを巡らせるのは楽しいものです。

今回は、カリフォルニア。ケイマスの92でした。
20年物のナパ・カベはきれいに熟成していたものの、芯にあるべき腰がなかったのが残念。
良質のボルドーに通じる熟成香やなめらかさは、十分楽しめましたが。

料理も満足がいき、財布に優しいのも今のうちだけでしょうか。
グルメ雑誌で取り上げられて、食べログで高評価が付く前に通っておきたい1軒です。