ミッシェル・ナカジマ 鎌倉 | 御食事手帖

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主に東京と湘南で食べ歩き、でも美食のためならどこへでも旅するブログ

料理は、良く言えば安定、悪く言えば驚きや発見がありません。周辺にこれといったライバルがいないので、無理に頑張らなくてもやっていけるのでしょう。ただ、訪問を重ねるごとに、客の方は飽きがきます。今回はデセールが低調だったのも気になります。ワインリストは相変わらず改善が見られず、もう投げている観ありです。
★★★★半☆


立ち止まれば、死するのみ。

経営の世界の常套句です。
これはそのまま、料理の世界にもあてはまるでしょう。
お店が軌道に乗り、新たな冒険をする必要がなくなった、とオーナーや料理人が感じてしまったら、もうおしまいです。停滞から衰退へ、悪循環がすぐに始まります。

革新の持続こそが、店の寿命を延ばす唯一の方策ではないでしょうか。

さて、鎌倉界隈のフレンチを全部試したわけではないので、でかい口は叩けません。が、トップを走っている1軒が「ミッシェル・ナカジマ」であることを否定する方はいないでしょう。

2005年に開店とのこと。
お店はいまや、すっかり安定期に入られたのでしょうか。
高いレベルではありますが、似たような料理にちょいちょい出くわします。
以下、シェフのお任せコース10500円(サービス料別10%)より。

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アミューズ3点盛。
鯛のトマトジュレ、グジェール、猪のラルドン。
パリのタイユバンはかたくなにグジェールのみをアミューズにしつづけましたが、その影響でしょうか。日本でも妙にマネしてグジェールを出す店が多いですね。
害獣イノシシの加工品も、今では多くの店が出すので新味はありません。


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フォアグラのパヴェ、ミラベルのコンフィチュール、ブリオッシュ添え。
ダロワイヨの名物「オペラ」を意識した外観、でしょうかね。
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下がナッツをくだいたプラリネ状のもの。
上は、ルビー・ポルトのジュレ。
ルビー・ポルトは、6月に食べたアナゴとフォアグラのフイユテでもソースに使っていました。
こういうの、とても萎えます。
フォアグラ+ルビー・ポルト、こうしておけば、客は満足でしょ、というシェフの考えが透けて見えるからです。
名シェフなら、いつ、誰に食われても、スキがない料理を作らないといけません。
フォアグラのテリーヌに甘さを加えるアイデアぐらい、10や20は持っているべきでしょう。

ついでにいうと、ミラベルはもうちょっと酸味を残した方が良いです。ナッツとポルトで、すでに十分甘くてくどいですから。

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鱧のフリット、キノコのサラダ。
期待した一皿でしたが、味は割と普通でした。
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鱧は揚げた後、キノコと一緒に煮含めたのでしょうか。味の一体感はありますが、食感が単調で面白味には欠けました。

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前菜3皿目は、ジュレにアワビを混ぜて、ウニをのせたもの。
本来は、ご自慢の料理であるウニのサヴァイヨンを出すところを、アワビの料理に差し替えてくれたようです。オマールのジュレと上のウニは同じです。


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魚料理は金目鯛。
まこもだけのロースト、イカのソテー、イカスミフレンチトーストにイカスミパウダーと、この料理は妙に創作系です。
イカスミフレンチトーストは、変わり映えはするものの、すごくおいしいかと聞かれると答えに窮します。主菜である魚との相性も、やや疑問。

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メインの肉料理は、秀逸でした。
カナダ産のガスポールという品種で、ミルクで育てた仔豚のロースト。
コション・ド・レと違って、母豚からの授乳が終わった後も、配合ミルクを飲ませて30kgまで育てるそうです。
これはまず、皮が抜群においしい。パリパリに焼いた皮の風味が、フィリピンのレチョンとか、バリのバビグリンを思い出させます。
しかし、中の肉は似て非なるもの。こちらの方がはるかに洗練されています。
甘い脂としっとりピンクに焼き上げた肉は、汁気を良く保っています。
ソースがさらさらし過ぎて頼りなかったのが、ちょっと残念。

ちなみに隣のテーブルの人が、アーティショーのことを「なす」と呼んだせいで、あやうく豚の骨がノドに刺さりそうになりました。油断大敵です。

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こちらは、残念だったデセール。
「洋ナシのロースト パンデピス入り温かいプディング キャラメルソースとシナモンアイス」
まず洋ナシがまだ青くて、果実本来の甘さが足りない。
さらにパンデピス入りのプディングというのが、極めて訳の分からない味。寝ぼけていて、食感も悪く、全然美味しくない。
加えて、シナモンのアイスが、味が薄い。乳脂肪分もシナモンも、どちらも足りません。
全体に味が薄っぺらいのです。
私は、デセールの知識に乏しく、専門的なことは言えませんが、もっと味や香りにピークや濃淡をつけないと、ノペーっとした食後感になってしまいます。

さて、これで10500円にサービス料10%が加わり、残念なワインリストからの飲み物代などが加算されると、東京と変わりない料金となります。
しかし、カードは使用不可。
物騒な世の中で、客に大量の現金を持ち歩かせるというのは、あまり感心しません。
カード手数料を払いたくないのは分かりますが、ちょっとせこ過ぎます。
早くお金をためて、もっと良い立地に移転したいのは山々でしょうが、それなら料理とサービス、ワインの品ぞろえなど、店の実力で稼ぐべきです。

あれこれ言いましたが、それもこれも、このお店を割と気に入っているがゆえのこと。愛情表現のひとつです。
なにせ鎌倉には他にまともなフレンチがないのですから、しっかりしてもらいたいと願うばかりです。