




東銀座の妙な立地にありながら、大変な人気を博しているビストロ。
内装がちょっとスカしているのが、女性に受けるのでしょうね。
旧店名は「アンファン・テリブル(enfant terrible、恐るべき子どもの意)」でした。
店主がジャン・コクトーのファンであるなら、なかなか深い意味合いのネーミングと褒めてあげたいところ。
しかし、コクトーの小説のタイトルは複数形。店名は単数ですから、おそらく違うでしょう。
さしずめ「恐るべき才能を持つ若手シェフ」と自画自賛してしまった類かと思われます。
黒板表記のメニューは、種類も豊富でビストロらしさが感じられます。
特に、冷・温に分けた前菜は、目移りがします。
値段も、蝦夷アワビと茄子のマリネを除くと2千円未満でお手頃。
ポーションも少なくありませんから良心的です。
ウリの料理なのでしょうか、「赤ピーマンのムース 生ウニ添え」は、きちんとした仕事のレベルが感じられます。「コート・ドール」の名物料理をふと思い出し・・・たりはしませんが。
仕事がきっちり、という意味では、鴨とフォアグラのテリーヌもなかなか。
肉やレバーの味がギュッと詰まっていて、緩みがありません。脂分の配合量も適切。
温かい前菜では、「穴子と万願寺唐辛子のフリット」がシンプルながらおいしい。しかも量がちゃんとあります。揚げたての万願寺を白ワインでやると、ほどよい苦みがたまりません。フレンチながら、穴子の質もまあまあです。
ルクルーゼだったか何かに入れて出てくる「野菜のポットロースト」も、バカにできません。
アンチョビとにんにくをしっかりきかせたソースと、火が入って甘みを増した野菜が良く合います。生野菜を食べさせるバーニャガウダより、よっぽど気がきいてます。
これら前菜に対して、メインの肉料理は単調で面白みに欠けます。
「ヴァンデ産小鴨のロースト ブルーベリーソース」は、まずソースがソースになっていません。鴨には果物を入れれば何でもよい、という安易な発想のようです。猛暑の夜に鴨を食わせるなら、もっと酸味のきいた爽やかなソースにすればよいものを。肉そのものも、ヴァンデ産のご利益が全然感じられない普通の鴨です。
「スペイン産乳飲み子豚のロースト バスク風」も、肝心のバスク風が寝ぼけています。パプリカ入れたら何でもバスク風、という安易な発想のようです。「Piment d'Espelette」をビシッときかせて、夏らしく辛味で料理を引き締めるとか、もっとやりようがあるでしょう。
全然、テリブルではありません。
怖いのは料理人の才能ではなく、男のサービスの人。
無愛想でじとっとしています。笑顔ゼロ。
嫌ならサービス業なんかやめればいいのに、と思わずにはいられません。
結構食って飲んで、お店に貢献しましたが、サービス氏とは最後まで分かりあえませんでした。
きっと女性客には愛想がいいのでしょう。
ここでは、前菜を中心に食事の構成をたてて、メインは「スペシャル」と称するカツカレーを食べるのがベストかもしれません。見るだけでしたが、実に美味しそうでした。