




みなさんご存じ「東京イチの日本料理店」として不動の名声を確立している「京味」へ行ってきました。
予約は3か月待ち。ついにやってきた初体験の機会でしたが、期待が高すぎたのでしょうか、実際食べ始めるとそんなに驚くべきものではありませんでした。むしろ一人あたり35000円ほどの現金払いの方がびっくりです(もちろん知ってましたが)。
新橋の場末と言ってよい立地。
暖簾をくぐって目を見張るのが、調理場で働く人の数。
カウンター8席に対して、7~8人いたかと思います。
75歳の名物店主と修業中の板さんたち、さぞや厳しい職場なのかと思いきや、笑いながら私語をしていたり、包丁さばきが意外にまごついていたり、と「普通のお店」感が漂っています。おかげでこちらの緊張はすぐにほぐれました。
料理は、結構なボリュームです。
最初は、鱧の中骨揚げと焼き鱧の押し寿司、干しシイタケと瓜の胡麻和え。
骨揚げはビールがすすみます。押し寿司は、鱧自体の味が淡く、印象の薄さはぬぐえません。
旬のあわびは、とろろ芋とのすりながしで出てきました。
残念ながら、そんなにあわびの風味は出てません。磯の風味などは、むしろ抑え目。蒸し暑い日の食事前半には、この程度が良いのでしょうか。
ずいきを炊いて葛でとろみをつけた熱々のが出てきました。素朴な料理ですが、これは気に入りました。
この日一番くらいにおいしかったのが、鱧の子と肝と浮き袋を炊いて、冷たく煮凝り風に寄せたもの。
ねっとりとまとわりつく鱧子と肝を甘めに炊いていて、ところどころコリッとする浮き袋が食感を高めています。日本酒がいくらでも飲めそうな一品。
揚げ物は、トウモロコシと笹の一種。
うーん、これは本当にごく普通。揚げ方も素材も、本当に月並みでした。
淡路から取り寄せの鱧は、落としと焼き霜で出てきました。
まず、落とし用の梅肉が抜群にうまい。酸味と甘みのバランスが実に良いです。
鱧自体は、脂というかコクに欠く、さっぱりした身質で特段うまいとは思いません。
お椀は、鱧に梅干しの皮をかぶせたものがタネ。じゅんさい入りです。
出汁は、昆布が強く感じました。濃いとは思いませんが、しっかりしてます。京都というより東京の味でしょうか。梅干しの皮は、これまた良い味。
造りは、鯛とカレイ。これも淡路からのものだそうですが、どちらもごく普通レベルです。鯛は薄くひいていて噛みごたえに乏しく、風味も弱かった。カレイは、淡路以外でもっとうまいマコガレイがありそうに思います。
うになすは、絶品。小さなナスを甘めに仕上げて、淡路産のあっさり目のうにをのせてます。うにの味は淡雪のように口に広がり、ナスの脂と渾然一体となり、何ともいえないハーモニーを奏でます。荒木町の「うえ村」のうになすも美味いですが、うにの質が違います。こちらはミョウバンなし。鼻に抜ける香りの差が歴然。
鮎は、十津川産とのこと。塩焼きが2匹つきました。蓼酢が上品で酢加減と香りが大変良かったです。
炊き合わせは、石川芋と南瓜、タコの子。このあたりが、東京一の円熟の技なんでしょうか。しみじみとした味です。
締めの食事は、定番と聞いていた鮭ご飯。立派な鮭の焼き立てをほぐして、ご飯の上にテンコ盛りにしてくれます。意地汚くも、おかわりしてしまい、腹はパンパンに膨れ上がりました。
最後に甘味。老主人自らが目の前で手作りした葛切りです。食感が見事で、「これが本当の葛切りかあ」と感心してしまいました。黒蜜も見事。
総じて言うと、もちろん満足なのですが、ただ35000円以上の出費を覚悟でまた行きたいかと聞かれると微妙です。まだ私には過ぎたお店なのでしょう。でも良い経験になりました。